ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

サマースノーサプライズ/SUPER STEREO

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世界中に誇りましょう その胸騒ぎ

 

サマースノーサプライズ(以下サマスノ)というラップグループがいた。バリバリのヒップホップというよりは、ポップなビートにラップを乗せるという感じの三人組だ。彼らに出会ったのは私が高校生の頃、やはり深夜のPV集番組を無作為に見ていた時に偶然見つけたのだった。そこで流れていたのがこの「SUPER STEREO」だ。

面白いPVだよなあ。思わず笑っちゃう良い意味でのくだらなさ。記念撮影の時の顔出しパネルで歌うんだけど、「そんなパネルどこにあるの…?」っていう珍妙さがすごい。この新人アーティストのPVのためにわざわざ用意したというのも、おかしみを増長させている。

 

面白さはPVだけでなく、曲自体もユニークだ。人の声を短く切り取ってサンプリングしたような音を、イントロでいきなり連発させてくる。この音がなくても充分成立するトラックなのにも拘らず、こんなふざけた音をデビューシングルからかましてくるのだ。サマスノは他の曲にも人の声をちょくちょく混ぜる傾向があり、結果的に唯一無二の彼らのサウンドになっている。

 

またディストーションの効いたギターが、パーティーチューン的なトラックに拍車をかける。ハードなギターが響くロック+軽快なラップ+時折聴こえるデジタルなシンセという、美味しいところを全部集めました的なデラックスプレート感が彼らの持ち味なのだ。

 

ラップに関しては所々固めにガッチリ踏んでくるところもあるのだが、彼らのラップはあまり韻に拘っていない。ただ声に出してみるとわかるのが、歌っていてすごく気持ちの良い言葉が多いことだ。言葉の意味はあまりわからなくても「なりきり気取る決まり」「上手く着飾って」「バスト蹴っ飛ばすセンセイション」あたりなんか、口が心地よいったらない。

 

彼らが所属していた時代のARTIMAGE RECORDSはSOUL'd OUTを筆頭に、Retro G-StyleやBREMENなど私好みのミュージシャンが揃っていて、サマスノもこのレーベルだと言われれば「そりゃそうだろう」としか思わない。他にはない独特な雰囲気のあるレーベルだった。

 

そしてこのレーベルからシングル3枚とアルバム1枚を出してサマスノは解散する。最後に出したアルバムは今までの曲を全部詰め込んだ集大成だったが、SUPER STEREOレベルのクオリティを誇る曲は数えるほどしかなかった。随分と生き急いだグループだったと今は思う。その後トラックメイカーのHaya氏は他のアーティストに曲提供をしていたのだが、2010年を最後に消息不明となってしまった。それでもこの曲のBig Beatは今もなお私の心の中で止まっていない。それぐらいの魔力がある曲だ。

LOOK MUM NO COMPUTER/Youth8500

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LOOK MUM NO COMPUTERを知ったのは、この記事を書いている数時間前。Sam Battleというミュージシャンのセルフプロジェクトである。モジュラーシンセを操ってライブを行う彼の動画がYouTubeのオススメに挙がってきて、偶然見つけたのだ。そしてそのインパクトのあるパフォーマンスと、少し懐かしいテクノやエレクトロハウスチックな曲調を気に入り、こうして記事を書くに至っている。

まず目を引くのが大きなモジュラーシンセ。「Kosmo Modular Synthesizer」という自作のシンセだそうで、曲によってモジュールを組み替えている様子が同氏のサイトから窺える。ArturiaのBeatstep ProやKORG MS-10もビジュアル的に良い味を出している。

 

イントロはパルス派のベースが軸となり、テクノ風味なシンセリフが浮遊感たっぷりに耳に入ってくる。YMOの「東風」を思い起こさせるレトロさが面白い。BECKの「Get Real Paid」なんかを彷彿とさせる魅力も感じる。ボーカルは意外にもオルタナティブなロック調なのだが、全くといっていいほど違和感がない。

 

サビの直前でMS-10のカットオフが捻られる。MS-10のうち一台はフィルターとして使っているようだ。そしてベースはハードさのあるブリブリとした音に変わり、曲の主役として存在感を示し始める。Samはマイクに向かって吠えるように歌い始める。クールなトラックに熱量のあるボーカルがたまらない。

 

曲全体を通してみればかなりシンプルな作りであるのだが、アナログシンセの生み出すグルーヴと不思議とエモーショナルなメロディーは新鮮で飽きさせず、何度も聴きたくなってしまう。良いミュージシャンを見つけてしまった。

音源バージョンもカッコいい。というかこっちのほうがしっかりとした作りになっている。

 

しかしモジュラーシンセってのはロマンがあるよなあ。私はKORG DS-10で初めてアナログシンセの仕組みを知り、大学二年の夏休みなんかはバイトもせず、部屋に籠ってモジュールを弄りパッチングをあれこれと試す暗い日々を送っていた。いつからか派手な音のするシンセや生音の音源を好むDTMerになってしまったので、アナログシンセのディープな世界を懐かしく思うと同時に、その道を究めるミュージシャンを見ると憧憬の念を抱かずにはいられなくなる。

 

なおこのSam Battle氏は一風変わったシンセを発明しており、そのマッドサイエンティストっぷりときたら開いた口が塞がらない。

1000個のオシレーターを持つシンセ

 

レッドブルをシンセにしてしまったり

 

魔改造により、もはや「モルスァ」と鳴くこともできなくなったファービー

KOTOKO/Special Life!

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今から13年前に「仮面のメイドガイ」というアニメが放送されていた。主人公の女の子の下にマッチョで無敵のメイド(♂)がやってくるスラップスティックコメディだ。話しのテンポがよく、ノリも良くて面白いアニメだった。そのOP主題歌がKOTOKOの「Special Life!」である。

私がKOTOKO氏を知ったのもこの曲。若干(?)電波ソングのようでもあるのだが、まずイントロは重厚なギターと軽快なドラムがアップテンポに響くという、なかなかユニークな始まりである。そこからKOTOKO氏の早口なボーカル&セリフに、マッチョな歌詞&コーラスという、これまた意表しか突かない構成なのだが、この男声はKOTOKO氏が自分で叫んでいるのだとか。そんな馬鹿な…。

 

本作を意識して作詞をしたようで、Aメロはこのアニメの導入部分のような歌詞となっている。主人公富士原なえかの家に「突然現れたモンスター」ことコガラシがやってくるあたりはまさに第1話だ。このコガラシの引き起こす騒動に巻き込まれていくななかは、本作でツッコミ担当である。

 

ところがBメロの歌詞から徐々にぶっ飛んでいく。「常識そんなもん藻屑とはじけた!」。今まで主人公目線で進んでいるのだから、ここの言葉も主人公の気持ちである。本編のツッコミポジションと違って、OPでのなえかはBメロですでに吹っ切れているのだ。

 

そこから「拳振り上げロケット噴射↑↑↑」の歌詞の通り、突き抜けていくような爽快なメロディーがサビでやってくる。A~Bメロまで楽器の編成は大きく変わっていないのだが、KOTOKO氏のコーラスが幾重にも重なっているからか、盛り上がり感がすごい。そしてまた歌詞が脳筋要素マックスである。先述のように主人公のななかは本作でツッコミなのだが、本編では結構ボケ倒すことも多く、視聴者から見ると「この娘も大概おかしいんじゃないの…?」と笑ってしまうようなキャラなのだ。そういった意味でサビで脳筋に振り切る歌詞になるのは、全くもって不思議ではなく、しっくりきてしまうのだ。

 

この曲の依頼がきたのが「リアル鬼ごっこ」の舞台挨拶ぐらいの時期らしく、頭の中はまだ「リアル鬼ごっこ」のダークな雰囲気でいっぱいだったにも拘わらず、こういったセンス溢れる詞を書きあげてしまうあたりが、さすがKOTOKO氏だといえるだろう。

 

ただしジャケットにもあるように、この曲のPVはなぜかサイパンで撮影されている。スプラッシュ感のある弾けた曲なので海辺なのかもしれないが、ここだけちょっと意味がわからない。

 

そんなわけであまりアニメ視聴が続かない私にしては珍しく、本作は最後まで見ることのできたアニメであった。最終話では二期に繋げられるような終わり方をしたのだが、それっきりであった。制作だって楽じゃなければヒマでもないのだろうが、二期が見られたら最高じゃないか。

JUDY AND MARY/LOLLIPOP

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私がJUDY AND MARY(以下JAM)を知ったのは確か「Over Drive」あたりで、一番聴いていたのが「そばかす」で、昔付き合っていた人に勧められたのが「KYOTO」だった。他にも多くの名曲が存在するが、ひっそりと気に入っている曲はこの「LOLLIPOP」だったりする。

解散発表後にリリースしたラストアルバム「WARP」。「Brand New Wave Upper Ground」や「ラッキープール」というモンスター級の曲が揃っている中、ポツンと佇んでいるのがこの曲。コードは非常にシンプルで、JAMらしいポップでバンクな曲調なのだが、技巧を凝らしているわけでもなく、他の曲に比べればどうにも地味である。曲のクオリティが低いということではないが、わざわざラストアルバムに入れるか?って感じ。

 

しかし歌詞を聴けば、ラストアルバムに相応しい曲であることがわかる。もう相手に恋慕的な感情はなくなった主人公の「お別れよ好きだった人 元気でね」というフレーズから始まるこの歌は、主人公が今までの思い出を振り返って歌う曲だ。「きっと忘れてやらない」とか「ぎゅっと胸しめつけるけど」とか、未練があるような言葉は見られるのだが、「きっと一度きりの運命」「いたずらに未来を変えてしまう」とあるように、決して縒りを戻そうとしない固い決心が窺える。「2度と治らない風邪」を引いた主人公は、かつてあれだけ愛したイチゴの味もわからなくなり、「そんなこともあったけどね」とでも言いたげに振り返るである。

 

ここまで見ればわかるかと思うが、この曲はYUKIによるJAMへの想いそのものなのだろう。YUKIにとってJAMは自分をスターに押し上げた唯一無二のバンドだった。詳細は色々考察され尽くしているので先行研究に譲るが、バンドを終わらせることになった時、その軌跡を振り返って書いた曲なのだろうと思わずにはいられない。それだからか、余計なものを省いたスッピンのような曲に仕上げたのではないだろうか。この曲はこれでいいのだと。

 

なんという切ない曲なのだろう。去り際にこんな曲を置いていくJAMはズルイったらない。この曲を聴く度に、昔付き合った人だったり、深夜まで話し合ったりしたバイト先の仲間だったり、色々と可愛がってくれた大学の先輩だったり、同じ業界への就職を目指していた他大学の同志だったりと、もう二度と会わないであろう人たちのことを思い出してしまう。この曲と違ってそのほとんどは特に切ない別れ方をしたわけではないのだが、戻れない人間関係や時間という心のノスタルジックな部分を締め付けるには充分な曲である。

 

さてJAMの話に戻る。バンドの他メンバーはイベントでセッションをしている様子が見られるが、YUKIのみメンバーとの絡みが一切ない。彼女の中で「LOLLIPOP」の精神は今もまだ続いているのかと思ったが、おそらく「LOLLIPOP」がYUKI自身のアーティストとしてのスタンスを表したものなのだろう。だからYUKIYUKIでいる限り、JAMの再結成はないのだと思ってしまう。その時ふと気づく。「本当はもう会えない事を知って」しまった私もまた「LOLLIPOP」のスタンスになっているのだ。なあんてね。

SEKAI NO OWARI/虹色の戦争

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一時やたらと話題になっていたSEKAI NO OWARI(以下セカオワ)。私が初めてこのバンドを知ったのは、10年以上前のスカパーの「今注目のインディーズアーティストのPV集」的な深夜番組だった。そこで偶然流れてきたのが「虹色の戦争」である。

私は首を傾げた。「えっ、どっちがアーティスト名で、どっちが曲名…?」。当時このバンドは「世界の終わり」名義であり、こっちのほうが曲名っぽいなあということで、最初私はこのバンドを「虹色の戦争」だと思っていた。もっとも聴いていくうちにこちらが曲名だということはわかっていったのだが。

 

次に驚いたのがバンド編成である。ボーカル兼ギター、ギター、キーボード、DJという滅法変わった編成なのだ。この並びのバンドを他に私は知らない。DJはなぜか白Tシャツのピエロであり、イントロからノリノリで踊っている。カメラはずっと上からの視点であり、いまいちメンバーの様子がわからない。何よりイントロは非常にポップである。ここまででまだ30秒ほどであり、余りある情報量が流れてきて、このPVから目が離せなくなった。

 

Aメロで聴こえてくるFukase(当時は「深瀬」名義だったか)の声とビジュアルがまた印象的だった。声変わりしたぐらいの少年の声というのだろうか。あまりバンドタイプのグループで聴かないタイプの声だ。ビジュアルも神木隆之介君に少し似ていて、役者顔だなあと思った。そこにカットインしてくるキーボードのお姉さんSaori。弾いているローランドの電子ピアノといい、この人もまたバンドっぽくない。こういったPVでキーボーディストが弾くのはアップライトかシンセ(大体Nord)が定石であるのに、彼女はFP-4という「The 電子ピアノ」を弾いているのだ。 服装も普段の私服を着てきました的な感じで、これまたPVっぽくない。そしてちょいちょい出てくる謎ピエロ。ギターのNakajinだけがちゃんとバンドっぽい雰囲気を醸し出している。いや一体どういうことだ。

 

そんな不可思議なバンドが歌うこの歌の歌詞は、Aメロから不穏だ。最初こそよくあるような言葉だが、Aメロ終わりで「偽物の自由の歌が爆音で聴こえるだろう」と締めくくっている。「自由」「平和」の歌詞の最後が「爆音」という、あまり見られない組み合わせであり、ここで「ん?」となる。そこからBメロで「鳥籠の中で終わりを迎え『自由』は僕になんてて言うだろう」と、うっとりした表情で歌いあげるFukase。不穏な歌詞と表情が嚙み合わず、どうにも雲行きが怪しい。

 

その不穏さの正体はサビで判明する。「貴方が殺した自由の歌」とくるのだ。これは二番も聴くとより確かなものになるのだが、人間にとっての「自由」と「平和」は、他の動植物を蹂躙し、その犠牲の上に成り立っているものであり、そうとも知らずに「自由」と「平和」を謳っている人間の烏滸がましさを、この歌は訴えているのだ。目をひん剥いてそんなメッセージを歌いあげるFukaseの姿に軽く引いたものだ。しかしちょっと危ない雰囲気でカウンターカルチャーチックな歌を歌いあげる姿は、実にロックではないだろうか。バンドの初期衝動っぽさも十二分に感じられて良い。サビのコードは斉藤和義氏の「歌うたいのバラッド」とほとんど同じであり、これまたこの曲のロックさに拍車をかけている(ような気がする)。

 

さてこの曲で私が最も好きな箇所はアウトロだったりする。突然DJ LOVEがボコーダーでかなり皮肉的な歌詞を英語で歌いだす。ある意味最もロックな箇所であるのだが、ポップな曲調にピエロがこんな調子で声を乗せるのだから、どこか楽天的ですらあって、そのギャップがまた独特な魅力を生み出している。花や虫やセカオワはそんなことを考えてしまっている私になんて言うだろう。

洞窟物語

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フリーゲームの金字塔「洞窟物語」。5年以上前だったかと思うが、どこかで耳にしたこのゲームを私もやってみたのだが、これがフリーゲームと思えないぐらいの完成度で、どっぷりとハマってしまったのであった。

 

そしてこのゲームの完成度の高さの一つにBGMが挙げられることも周知の事実だろう。独自ドライバ「オルガーニャ」で作られたBGMはレトロ感のある温かい音が魅力的である。というわけで今回は、洞窟物語のBGMについて書いてみようと思う。

 

まずはタイトルBGM。

ビートやベースフレーズがR&Bっぽいのよね(0.75倍速で聴くとよくわかると思う)。この曲から全くゲームの内容が読めず、謎の多い洞窟を暗示させるような不思議な曲調ですごく好き。

 

あまり語られることはないのだが、私は山下農園のBGM「プラント」も好きだ。

序盤から行けるものの本編にあまり絡んでこない場所であり、このBGMはここでしか聞けない。他の曲に比べて牧歌的であり、なんだかんだシリアスで歯ごたえのあるアクションのこのゲームの中では割と異質な一曲なのだが、それゆえに癒しを与えてくれるのである。ここにいる間は静かに暮らせる的なね。

 

明るい曲ではクサムラのBGMも良い。

名前通り草が生い茂っており、高低差もあって色々と探索が楽しいエリアである。だからなのかぐんぐんと前に進みたくなるビートが、ワクワクさせてくれるのである。

 

んで私が今作の中で最も好きな曲は「じえんか」だ。

ジェンカの家で流れてくるBGMで、Pixel氏作曲のものではなく元ネタのある曲なのだが、オープンハイハットやピコピコしたスクエアのような左右で広がる音や、ハイハットのようにやたら荒ぶるスネアドラムなど、すごく拘りと愛を感じる編曲になっているのだ。

 

最後に外壁のBGM「つきのうた」

本作屈指の人気曲であり、この曲が流れるシーンを作りたかったことから、このゲームは始まったんだとか。基本的に横スクロールが続く本作において、ひたすら上へ上へと昇っていくエリアで、色々なものを失ってきた哀愁と、不退転の勢いで進んでいく主人公の心境を表しているような名曲である。このエリアの敵「夜の精」がかわいい。

 

そんなわけで今回は五曲に絞ったが、他にも魅力のあるBGMで埋め尽くされているのがこのゲームである。今でも「面白いフリーゲームなんかある?」と聞かれたら、この作品を必ず挙げるほど楽しませてもらった。なお私はゲームパッドの存在を知らず、ノーマルエンドまでキーボードを使ってやっていたが、血塗られた聖域でそれを諦め、ゲームパッドに手を出した。そんなものがあるのなら早く言ってくれと、誰に言うわけでもなく呟いたことを覚えている…。

Every Little Thing/出逢った頃のように

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私はEvery Little Thingにそこまで思い入れがないのだが、私の思い出にはこのグループのサウンドが残っているし、音楽ライブラリにも多くの曲が入っている。その中でも最も私の好きな「出逢った頃のように」について書いてみよう。この曲を知ったきっかけはもはや覚えていないのだが、Wikiを見る限り「ICE BOX」のCMソングだったらしいので、恐らくそれなのだろう。

めっちゃ狭い通路でギターを弾くいっくんがシュール

サビから入るこの曲は、ボーカルとコーラス、ピアノにベルという煌びやかな音から始まる。間奏で連発されるオケヒに、ハードなエレキなどが加わる、90年代の美味しいところを詰め込んだような編成となる。変ト長調で楽譜がクッソ読みにくいところが、ちょっと困る。

 

Aメロ。といってもA→B→A→Bという構成に聴こえるのがこの曲。この部分が全体の中でも特に顕著なのだが、もろにビーイングの音(特にZARD)なんですよね。ギターのリフやメロディの運び方の織田哲郎氏っぽさが何とも言えない。それでいてオリジナリティを感じさせるのは、ボーカルの持田氏の持つ、ビーイングっぽくない高くてクリアな声質によるものが大きいだろう。

 

サビではシンセブラスも鳴り響く。ここでシンセブラスを持ってくるのも、ビーイングにはない部分であると個人的には思っている。織田哲郎氏はギタリストなのだが、この曲の作曲・編曲である五十嵐充氏はキーボーディストであり、それだからかELTらしい個性がここで光っているのかもしれない。

 

サビも含めてこの曲は、全体的にマイナーコードが多用されているが、歌詞の前向きさもあってか、暗さや悲しさのようなものは感じられず、移ろう感情や成熟しつつある心情などを表現しているように思える。またそれだからこそ合間合間で見られるメジャーコードがキラキラと輝いて見え、それはまるで雲の隙間から照らす太陽のようでもあるのだ。

 

そしてこのキラキラ感は、当時の持田氏のキャラクターそのものだ。目鼻立ちが整っているのに透明感のあるビジュアルに、先述のようなクリアな声。唯一無二の無敵のボーカルだと私は思っている。

 

ELTの音源を私が集め始めたのは、そこから二十年以上後のことになる。頭の中で鳴っていた古いフレーズを思い出す作業の一環として、ELTの曲にも手を伸ばしたのだ。その後は氷の入ったコップに水を入れるように、このグループの音が自然と脳内に溶けていった。「きっと色褪せないはずだよ」というのは、まさにその通りだと思った。