ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

Cyber Nation Network/GET MY FUTURE

ビーストウォーズII 超生命体トランスフォーマー」というアニメがあった。トランスフォーマーシリーズのうち、コンボイがライオン、ガルバトロンが恐竜の姿になっているものであり、3Dであった前作と異なり2Dアニメとして放送されていた。正直話の中身は覚えていないのだが、Cyber Nation Network(以下CNN)の歌う主題歌だけは今も色鮮やかに記憶に残っている。

CNNはバンドデビューを目指すが、なぜか打ち込み系のユニットのオーディションに受かってしまったボーカルのSister MAYOと、「お料理行進曲」の作曲者でもあるプロデューサーのProfessor Hこと平間あきひこ氏によるグループである。詳しいことは昔私がアニヲタwikiに建てた記事に書いてあるのでここでは割愛するが、オケヒを多用したり、外国語の通信の様子をサンプリングしたりと、浅倉大介氏の影響を多分に受けたであろう、当時の流行が窺えるユーロビート系の楽曲をいくつか発表。三年ほどの活動を経て楽曲発表を休止した。

そんなCNNの三枚目のシングルが「GET MY FUTURE」だ。前二作が少しエモーショナルなコンセプトの曲だったのに対し、アニメの雰囲気に合わせたためかこの曲は今まで以上にパワフルで、ポジティブな曲調に仕上がっている。スネアドラムをリズム隊に入れていないため、キックの存在感が非常に強く、よりダンサブルな楽曲となった。

イントロで強風が吹くようなSFXを入れるのはCNNの曲でよく見られるのだが、今まではイントロをたっぷりと聴かせるものだったのに対し、今回はシンセブラスのバッキングがすぐに聴こえてきて、Aメロへ速やかに移る。

 

ディストーションチョーキングが綺麗に決まるギター、ダンサブルなバッキングのピアノが響くAメロは、リバーブがたっぷり効いているからか、ひんやりとした広大な空間を想像させる。Bメロもそのままの勢いで進んでいくが、半音上がったこととバッキングがボーカルとシンクロしたことで、やや盛り上がりを見せる。

 

サビはリズム展開こそ同じものの、そこから更に半音上がり、コーラスが幾重にも重なってゴージャスな展開を見せる。そして8小節目の後半あたりから、もう半音上がる転調を見せ、イントロのキーに再び戻ってくるのだ。曲を通してノブを捻るようにどんどん上へ上へと昇っていく展開が、この曲の醍醐味なのである。

 

シングルを五枚だして活動休止した彼らは、その七年後にベストアルバムを発売。さらに2018年に一夜限りの復活ライブを行うなど、どうやら私以外にも根強いファンがいるようである…

Creepy Nuts/だがそれでいい

Creepy Nutsを知ったのは、何かでR-指定のフリースタイルバトルを見たことがきっかけだった。不良やはみ出し者のアングラ文化が強いヒップホップから、まさか弱者のルサンチマンを柱に曲をリリースするユニットが現れるとは思ってもおらず、その屈折した心情を吐露する彼らに興味を持ってしまった。そんな彼らのメジャーデビューシングルタイトルが「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」である。

 

「だがそれでいい」はこのシングルのうちの三曲目であり、いわゆるB面にあてはまるのだろうが、きちんとPVが作られており、メジャーに出ていく彼らの鎮魂歌とも言うべき完成度を誇る楽曲に仕上がっている。

音楽史を漁れば、過去のダメな自分を振り返って声高に歌う曲はいくらでもある。「あの頃は俺もワルさをして人に迷惑をかけた」だとか「泥水すすって耐えていた」だとか、そういった類のものだ。暗い過去を歌い、そこから這い上がって今があるというように、比較を設けることで今の自分を強調し、似た境遇のリスナーに勇気を与えるテクニックである。「だがそれでいい」も同じことをしているにはしているのだが、この角度で自分の黒歴史に向き合う曲が未だかつてあっただろうか。

 

必ずしも男性のみではないので、厳密にはそうではないのだが、特にヒップホップ界ではマッチョイズムが賛美されてきたため、前史にある「ワル自慢」とか「辛い過去」というのは、それそのものにカッコ良さの味付けがある。本人からすれば恥であっても、それは強者の恥なのだから、弱者から見れば恥ではなく、勲章のようにキラキラと光って見えたりする。

 

一方の「だがそれでいい」は、そのマッチョイズムから淘汰されてきたR-指定の過去であるため、弱者の恥だ。したがって誰から見ても純粋な恥であり、これを題材にラップを書こうとする人なんて、まずいない。しかしそれ故に斬新であり、なおかつ「そう思っていたのは自分だけじゃないんだ」とか「こんな恥を口に出していいんだ」といった感情を呼び起こし、弱者に勇気を与えることができる。つまりこの楽曲の最大の魅力は、今までヒップホップ界が疎んじてきた日陰者のペーソスを、カッコ良さの新しい味付けとして確立させた部分なんじゃないかなあと個人的に思っている。

 

もっともPVは広い幅での黒歴史であり、いわゆる「リア充」の黒歴史もあれば、到底人には話せないようなものもあり、様々な世代・階層の共感を呼ぶようなものに仕上がっているのだが。

 

いずれにせよCreepy Nutsがこの曲をメジャーデビュー曲のB面に持ってきたのは、この恥のおかげでメジャーデビューできたのだと考え、そのルサンチマンを成仏させて先へ進んでいこうとしたように思える。だからこそこの曲の歌詞「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」は、「メジャーデビュー指南」を差し置いてシングルの表題になったのだろう。

女王蜂/待つ女

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♪まーてどくらせど おまえはこなーいー

 

という低くて艶っぽい声をスカパーのPV垂れ流し番組で聴いたのは、もう10年以上前のことだ。

9mm Parabellum BulletとかTHE BACK HORNとか、いわゆる歌謡ロックというジャンルの存在をよく聞くけど、ここまで濃厚な歌謡曲テイストな曲も珍しい。そしてビジュアルが歌謡テイストから一番遠いところにいるのも面白い。アヴちゃんなんか、戦隊モノの敵の幹部みたいな姿なんだもの。

 

歌詞は情念的で、もはや演歌の世界だ。「待つ女」と銘打っておきながら、ただひたすらに耐え忍ぶ女ではなく、待ちすぎておかしくなったのか、病的に笑って男を追い詰めていく、ストーキングテイストな女の歌だ。

 

その世界観をしっかりと支えるのがディストーションサウンドだ。特にリードギターの暴れっぷりが顕著であり、全然関係ないコードをジャーンと鳴らしたり、一人でフラフラ歩いているかのようなリフを奏でたり、フェイザーのようなエフェクターを使って轟々とした音を聴かせたりと、この曲の主人公の狂気がしっかりと表現されているのよね。

 

女王蜂の曲は、程度の差こそあれ全て狂気と情念に満ち溢れている。とはいえ全曲歌謡ロックというわけでもなく、色々な感情を様々な形で表現しているため、アルバム一枚通して聴いても退屈しない。それでも私は「歌姫」とか「火の鳥」のような、わかりやすい歌謡ロックが好きだし、彼女たちの持ち味を最大に魅せられるジャンルだよなあと思っている。

Status Quo/Burning Bridges (On and Off and On Again)

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Status Quoというイギリスのハードブギバンドがいる。活動開始が1962年で、今年で結成60年という超大ベテランながら、今でもアルバムを出して精力的に活動しているレジェンドバンドだ。「Status Quo」というのは“現状維持”という熟語だそうで、まさにこのバンドのためにあるような言葉ではないだろうか…。

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唯一のオリジナルメンバーでフロントマンのFrancis Rossi。こんなカッコいい72歳がいてたまるか

私はすかんちの「YOU YOU YOU」という曲が好きで、その曲のイントロがStatus Quoの曲をサンプリングしているという話を後に聞き、ポロロッカ現象のごとく彼らに辿り着いた。

一聴きでわかるUKロック感だが、Status QuoがUKロックらしいのではなく、UKロックの礎を作ったのがStatus Quoなのだから当然だ。このブギのシャッフルビートがどれだけのミュージシャンに影響を与えたのだろうか。

 

コードはシンプルなもの4つを多く回して使っている。ちなみに元々はイギリス民謡の「Darby Kelly」がベースにあるようだ。

「Burning Bridges」というのは日本語でいうところの“背水の陣”と同じ意味があるらしい。なるほど、確かに燃えている橋なんて渡って戻れないもんな。その後の歌詞もなかなか熱血的な内容であり、要約すると「何度も傷ついて挫折して全てが奪われても、その度私は立ち上がる」というものである。こんなにもご機嫌な曲調なのに、なんとまあスポ根チックな歌なのだろうか。

 

CDジャケットは冒頭に貼ったものなのだが、実はこの曲のレコードジャケットは別にある。なぜかマイク・タイソンを写したものなのだ。

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この曲が発表された1988年は、まさにマイク・タイソンの全盛期である。Status Quoがタイソンと関係があったという情報はないので、このスポ根ソングはマイク・タイソンの圧倒的な強さにインスパイアを受けたStatus Quoが、非公式応援ソングとして作ったのだと考えることができる。何が凄いって現役を引退しているとはいえ、マイク・タイソンもまた“Status Quo”なところだよね。

 

石野卓球/stereo nights

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今も放送されているかは知らないが、スカパーの音楽チャンネルの番組で、ミュージシャンがゲスト兼司会となって、自分の好きなPVを紹介していくものがあった。丁度16年前の今頃に見た回では、スチャダラパーが出てきたのだが、そこで彼らが挙げていたPVのほとんどは電気グルーヴ(以下電気)の石野卓球氏が作ったものであった。私は電気の曲をすでにいくつか聴いていたのだが、石野卓球のソロ曲は初めて知った。それが「stereo nights」である。

なんてくだらないPVなんだ!(誉め言葉)。曲はこんなに素敵なのに、カラオケ風のカタカナ英語表記、同じシーンを繰り返したり、意味もなく猫をカラフルにして遊んだり、「怖ッ!!」という文字表記など、くだらなさに例を挙げればキリがない。男女のダンスがガチなのも面白すぎる。すごく電気っぽさを感じるなあと思って見返したら、PVはピエール瀧が作っているそうだ。納得。

 

さて肝心の曲であるが、テクノなんだけれど電気っぽくないというか、卓球氏の他の曲に比べてポップなんですよね。卓球氏はミニマルテクノが得意で、クラブで首を振って踊れるようなものをソロで多く発表しているが、歌詞が存在していることもあり、この曲は万人受けするような曲調だ。はねるシンセベースや軽快なクラップの音はするものの、あまり変動のないフレーズと煌びやかなシンセの音が散りばめられているため、穏やかなまま楽しい気分にさせてくれる。

 

そしてこの穏やかな気持ちになる要素の一つとして、サンプリング元の存在が挙げられる。知っている人もいるかと思うが、喜納昌吉氏の「花〜すべての人の心に花を〜」のイントロをサンプリングしているのだ。

そりゃ優しい気持ちにもなるだろうと。しかしこの曲をテクノのフレーズに昇華させる発想がすごい。

メガマソ/トワイライトスター

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アニメ「メジャー」のエンディングの一つとして知られている曲だが、私はこのアニメを見ていなかった。たまたま見ていたスカパーのPV垂れ流し番組でこの「トワイライトスター」を知って、気に入ったのだった。

いわゆるヴィジュアル系バンドにあたるのだろうが、何が驚いたかって、ギターが可愛い女の子なのである。そしてこういうビジュアル系のバンドは、基本的にポーカーフェイスのミュージシャンが多いにも拘わらず、めっちゃニコニコしているのだ。いやはや可愛い。

 

そして後で知ってさらに驚いたのが、このギターの女の子が、女装(男の子)であったという事実だ…。もっとメイクバッチリの女の子になるのが普通(?)なのに、このナチュラル感溢れる涼平氏の女装たるや…。

 

歌詞はシンプルな言葉を多く使っているにも拘らず、抽象的なのがメガマソらしい。句読点の多さや、文字の並べ方など、涼平氏のセンスが如何なく発揮されている。恋愛の歌とも友情の歌ともとれる歌詞であるが、薄明にぼんやりと輝く星に対して、“遠く離れても同じ空を見上げている自分たちの絆”と“いつまでも持ち続けている希望や夢”という意味を重ねていると解釈できるだろう。

 

この曲は構成がすごく良い。イントロの最初はコードのGメジャーに対して9thノートで入ってくるので、ここでもう「おっ!」となる。コードはシンプルなものを何度も使っており、たとえばイントロとAメロなんかは全く同じ進行だ。Bメロもコードの順番を変えただけなのに、Aメロ16小節とBメロ16小節では、8小節ごとにリズムが変わるため、全くもって単調に聴こえない。

 

サビも同じコードを多く使っているが、ここにきてちょっとだけ違うコードを入れてくる。サビの入りとイントロのメロディの入りはほとんど同じなのだが、イントロが上記の通りGを使っていたのに対し、ここはセオリー通りにDメジャーに変わっている。イントロでは夜空で煌びやかに光る星の遠さを9thノートで表し、サビではオーソドックスなコードを鳴らすことで、力強さを表現しているように感じる。

 

そしてまた同じようなコード進行かな?と思いきや、Cメジャーを突然挟んだりしている。次のコードへ降りるまでの段差を増やしており、サビの盛り上がりの持続力を向上させているのだ。サビにおけるこれらちょっとの工夫が、この曲のクオリティを格段に跳ね上げている。

 

タイアップが「メジャー」なので、メジャーコードの工夫で曲をブラッシュアップしてしまおうと思ったに違いない、というのは私の考えすぎだろうか?

D.O/WE ARE 練MUR feat.JASHWON,PIT GOb

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10年以上前に放送されていた、TBSのバラエティ番組「リンカーン」でD.Oを知った人は、そこそこ多いのではないだろうか。私もその一人だったりする。

 

リンカーンの企画に「ウルリン滞在記」という、芸人が全く縁のない世界で一週間生活するという「世界ウルルン滞在記」のパロディがあった。ギャルサーやらオタク業界やらゲイのマーチングバンドやら、知ってはいるもののどういう世界かわからないようなディープな業界に、芸人がツッコミを入れつつ笑いを誘うものの、感動のラストを迎えるという流れだ。

 

そのうちの一回として、中川家の剛が練馬のラップクルー「練マザファッカー」に入り、ヒップホップを体験するという回があったのだ。番組では語られていなかったが、この練マザファッカーは元からあったグループというよりかは、地元の緩い繋がりを元にして、この番組の企画のために結成されたもののようだ。しかしそんなことを感じさせないほど、ナチュラルなクルー感が出ており、なおかつそこに中川家 剛が行くというアンバランスさが抜群のインパクトを生み出した。

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その企画の中で、剛がラップの練習に使っていたのが、D.Oの「WE ARE 練MUR feat.JASHWON,PIT GOb」である。

原曲からピッチを三つ下げてサンプリングしているのがわかる

アップされている動画で言及されている通り、THE 9TH CREATION という70年代に結成された(日本では)マイナーなグループの曲のイントロをサンプリングしている。トラックメイカーも務めるJASHWONは、アメリカのファンクやソウルミュージックのサンプリングセンスが素晴らしく、そこにブッといドラムを打ち込んでヒップホップにしてしまう巧みさがある。意図的なものかはわからないが、ニロ抜き短音階で弾ける音になっているため、なんとなく和風テイストに聴こえる。ドラムのタムの部分だけヒューマンビートボックスで録ったものを、ピッチ上げ下げして使ってるっぼい所も面白い。

 

ラップの部分は三人でのマイクリレーものである。D.Oは韻にこだわらないラップをするのだが、高めの声質でまくしたてる、言葉と言葉の繋がりが途切れない(音の空白が少ない)唯一無二のフロウが魅力だ。練馬だけでなく日本をレペゼンするようなリリックも特徴的で、和風のトラックとの相性も良い。

 

JASHWONのラップはトラックメイカーらしく(?)、音に対してタイトに乗せている感じがある。なぜかフェイザーっぽいエフェクターを使っている部分があるのも、やはりトラックメイカーならではだろうか。

 

PIT-GObのフロウも、一耳聴けば彼だとわかるぐらいかなり独特だ。言葉の持つキーを一度解体して、それを彼なりに再構築したと言えばいいのだろうか。三人の中で最も音の高低差があり、普通にラップしてもそうはならんだろというぐらい、アイデンティティを感じる。

 

そしてこの曲の見せ所は、やはりhookの部分だろう。音の数が少なく長い音が多いこともあり、音に合わせて全員が声を揃える様子は、まるで不良が歌う校歌のようだ。曲名が「WE ARE 練MUR」なのだから、校歌ではないものの、彼らの名刺代わりというか、アンセムになる曲として作られたのだろう。