私がヒップホップと出会ったのはSOUL'd OUTだったが、ハードコアなラッパーの曲を聴いたのは、般若の「理由」が最初になる。
私はそれまでラップというものを全くといっていいほど聴かなかった。メロの構成がしっかりしていて、サビに向かって盛り上がっていくような曲が好みであり、同じフレーズを使いまわす曲の良さが理解できなかったのだ。そんな中、いつものように深夜のスペースシャワーのPV集を漁っていた時、ヒップホップ特集が放送されていた。ヒップホップに興味がない私がこんな特集を見ていたということは、たぶんSOUL'd OUTのPVでも探していたのだろう。もちろん彼らの曲のPVは出てこず、なんとなく流し見していた時に、般若の曲が流れてきた。そこでカッコよさに引き込まれたというわけだ。
まずわかりやすい不良文化。私の地元の中学は、校名をggると「ヤンキー」と第二検索用語に出てくる地域ではあるが、如何せん田舎だったので都会のワルさとは無縁だった。このPVに映る人々は、まさに都会のヤンキーであり(もはやヤンキーに留まらないようなものも映っているが)、「いやいや、こんなものがあったのか…」とまるで高いビルを下から見上げるような錯覚を覚えた。まさに「MOST PSYCHO 悪の映像」である。
トラックとしては、ディストーションの効いたエレキギターや、アコースティックドラムの音をサンプリングしたであろうビートなど、生楽器の音色が目立つ。これにより般若のラップの不気味さと威圧感を増長させる曲調となっている。
こういった歌詞を聴くのも初めてのことだった。真夜中にライブに来た客のボルテージを上げるような、それでいて部屋で一人で叫びだすような切なさも感じる不思議な歌詞だ。最後のフックの前の「止まれねえんじゃねえ、止まらねえ」なんてところは、今でも脳内でたまに呟きたくなるパンチラインだ。
ここから私は般若のCDを集めだしたが、その頃はまだラップの良さをいまいちわかっておらず、盛り上がりに欠ける構成に首を傾げた。しかしある程度他のラッパーの曲も聴いていくうちに、般若のアルバムの質の高さに気づかされたのであった。般若のアルバムは「おはよう日本」と「根こそぎ」が“オラオラ期”のもので、「ドクタートーキョー」以降はソリッドでストイックな作風になっていき、この「内部告発」はその過渡期であり、割と異質な一枚であると私は思っている。個人的には“オラオラ期”の曲が好きなので「内部告発」自体あまり聴かないのだが、般若と出会ったこの曲は、私をイカレたショウへ連れていってくれたベストソングであるのだ。