ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

Suara/蕾-blue dreams-

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誰が覚えているかわからないが、「BLUE DROP 〜天使達の戯曲」というアニメが2007年の秋に始まった。地味だけれども学園モノでSF的で、百合要素がありつつ、しかし通して見ると何をやりたいかわからない作品で、視聴者を置いてけぼりにした奇作であった。

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見ていた人にリアルで会ったことがない

さて、そんな作品のOPとEDを歌っていたのが、Suara氏である。このアニメから私はこの歌手を知り、彼女の曲の中で最も好きなものとなっている。

イントロはオカリナで始まる。曲中でも度々オカリナの音が聴こえてくる。オカリナを用いるアニソンは結構珍しく、この曲を象徴する音色となり、アクセントにもなっている。コード進行としては小室進行で、マイナーコードから始まり、オカリナの音や包み込むようなストリングスと合わさって切なさと優しさが合わさった空気が出来上がり、「ふたり並んで手をつないだ空に…」という歌詞からそのままAメロへ入る。

 

Bメロはドラムのタムが使われ始め、うねり流れる大河のように、曲としてのスケールが大きくなる。丁度歌詞にも「流れてく時代はただ…」とあるように、時間の流れが描かれる。「悲しみも『さよなら』も碧い涙も 強さになる」という部分は、全て切なくて辛い言葉が並ぶ。しかしそれを「強さになる」と言い切るのだ。これは「碧い」日常を送っている時点の言葉でなく、年齢を重ねてその頃を思い出として語るような優しさがある。

 

サビの盛り上がりは非常に華やかだ。タイトルは「蕾」だが、鮮やかに咲く一輪の花を思い浮かべることができる。そしてサビの終わりの歌詞に「誇り高く咲く花にいつかはなれると 信じてた in the blue dreams」とある。「信じてた」と過去形を使っているのだ。Bメロの部分でも言ったように、やはりこの歌は過去を振り返ったものなのだ。

 

2番に入るとそれがより鮮明になる。「伝えたい 君といたひとつひとつの思い出に」と、かつて隣にいたものの、今はもう会えない「君」を思った切ない歌詞であることは間違いない。これは本編を最後まで見るとよくわかる。本編自体も切ない終わり方をしているため、「碧い」年頃に別れを経験し、月日が流れて大人になった主人公の心境を歌ったものではないかと私は推測している。彼女はそれを「蕾」と表現したのだ。

 

正直このアニメは万人にオススメできるものではない。むしろオススメできる人を探す方が難しいし、私自身も名作だと思っていない。しかしOPも含めてSuara氏の歌うこの曲は、紛うことなき名作である。ところであれから14年の月日が流れたが、今の私が当時の自分から見て「誇り高く咲く花」になれているのか自信はない。まだ蕾のままだったりして…。