ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

The Birthday/くそったれの世界

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「とんでもない歌が鳴り響く予感がする そんな朝が来て俺」という歌詞で始まるこの曲。いやはや本当にとんでもない歌が鳴り響いた。

 

チバユウスケ氏を中心とするThe BirthdayTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTはMステで見たぐらいで、その後彼らの活動は追っていなかった。今から7年ぐらい前だろうか。YouTubeで偶然彼らのPVを見たのだと思う。「なんだこの聞き覚えのある声は…?」と、私は再びチバ氏と彼の音楽に出会ったのだった。

ミッシェルの頃と比べて思うのが、非常にシンプルなロックンロールに仕上がっているという点だ。ミッシェルの頃は無骨で勢いのある若々しい狼だったのが、老獪にして眼光鋭いボス狼になったという感じ。コードはほぼ全てが3音で構成されており、7だのsus4だのがほとんど使われていない。それでいてここまで表情豊かでカッコいいのだ。

 

チバ氏の書く歌詞は抽象的であり、何が言いたいのかわからないことが多い。ただその雰囲気はドライであるのに人間味がある。Aメロの「クリスマスはさ どことなく血の匂いがするから」という部分であるが、ROSSO時代の「シャロン」なんかもそうであるように、冬を象徴するような言葉に死だとか血だとかをチバ氏はイメージづけるようだ(「泥棒サンタ天国」はさておき)。ただ「シャロン」の殺風景で死にギリギリまで近づいた危うい世界観に比べ、この「くそったれの世界」は「お前のそのくそったれの世界 俺はどうしようもなく愛おしい」「世界中に叫べよ I LOVE YOUは最強」ときたもんだ。人間賛歌とまで言えるほどの愛燦々っぷりである。「愛でぬりつぶせ」あたりからストレートに「愛」という言葉を使ってはいるが、その頃はまだPunkyな「愛」だった。しかしこの曲では愛する者に微笑んでいるような優しさが伴っている。 

 

ただこの「マーメイド」は、どうやら傍らにはおらず、「正直な友達」に取られたように思えてしまう。主人公にしてみればひどく「くそったれ」な世界であることだろう。しかし愛する者のことであるがゆえ、それもまた愛おしいという。なんとまあひねくれたラブソングだろうか。

 

そこから彼らの過去の音源を探し、新しい音源が出るたびにチェックしているが、やっぱりファーストコンタクトの曲というのは強い。今もまだ彼らの描くくそったれの世界を、私は愛おしく思っているのである。