ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

椎名林檎/本能

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椎名林檎氏との出会いはよく覚えている。「速報!歌の大辞テン」という地上波で放送されていた音楽番組だ。初登場した日にちまで詳細に覚えてはいないが、この曲「本能」が発売されたのが1999年の10月末なので、11月ぐらいの放送回だろう。

印象的だったのがPVだ。安っぽいナース服を纏った椎名林檎がひたすらにガラスを割りまくる。輸血パックをイメージさせる小物は見ていてヒリヒリするが、何よりベースを弾く医者の謎さが一番インパクトがあった。

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曲としては、ジャズで見られるような循環コードが、独特の気だるさと緊張感を生んでおり、歌詞や彼女のキャラクターをより鮮明にしている。そしてセブンスコードが多いとはいえ単調に聴こえず、感情のこもったバリバリのロックになるのだからすごい。

 

歌詞は「本能」という名の通り、非常に情緒的だ。「太陽 酸素 海 風」の下で本能のままに生きることができるというのに、そこに言葉が生まれたから本能は制限されたということだろうか。しかしこの気持ちを紡いでいるのもまた「言葉」なのだから、皮肉なものである。それをわかった上で、諦めのような視点からこの言葉を呟いているのかもしれない。

 

そこから急にエロティックな歌詞になる。どうにも真っ当な関係ではない男と本能のままに絡んで、そして一人になった時の虚しさを自嘲しているようで、でも寂しいような複雑な気持ちの歌である。

 

正直子ども時代の私がこの歌詞の意味を理解しているわけもなく、こういった解釈はある程度年齢を重ねて改めて聴いて考えたものだ。したがってどうしても他の曲に比べて思い入れが弱い。この曲から彼女の曲に入ったのは事実であり、一度書いてみたかったが、初期衝動がそこまで強くなかったのが我ながら情けない。「群青日和」とか「迷彩」とかのほうが実は思い入れが強かったりする。

 

さて、私の知り合いに自称ミュージシャンがいるのだが(何の仕事しているのかわからない)、彼は30年近く前に東京に住んでおり、椎名林檎がデビューする前、業界関係者の間で「すごい女の子がいるぞ!」と話題になったことを体感したそうだ。こんな話、後からでも考えられるような気がするのだが、その自称ミュージシャンの言葉を鵜呑みにするのであれば、やはり天才は現世に舞い降りた時から光っているのだ。