ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

倉橋ヨエコ/損と嘘

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損と嘘 損と嘘 損と嘘 全部全部全部私へ

 

連呼する悲しい言葉が音程の激しい上がり下がりと共に繰り出され、狂気を感じさせる歌、それが倉橋ヨエコの「損と嘘」だ。

 

この曲と出会ったのもスカパー深夜のPV集で偶然に。何十年前だ?というようなガッツリとしたテイストの歌謡曲に、マゾヒズム溢れる歌詞を歌う倉橋氏の癖のある声。同じくスカパーでの特集番組にて「六畳一間の部屋にグランドピアノ置いて暮らしています」と照れくさそうに言ってのける溢れんばかりのサイコ感。当時高校生だった私は人に刺さる要素満載のミュージシャンを見つけた。

PVがイカレ具合を助長させている

こういうジャンルをなんていうんだろう。歌謡曲ながらリズム隊やブラスセクションによるジャズっぽさがあって、バリバリ日本風というわけでもない。かなり独特な曲調だ。また倉橋氏のハリのある声がジャジーなのである。音程の上下移動が激しいのもポイントだ。低い音を歌っていたと思ったら、急にファルセットになったりと、気持ちの激しい浮き沈みがそのままメロディーに表れているようだ。他にもサビなんかで同じメロディーを繰り返しているようで、コッソリ半音上げていたりするのが、これまた不安定さを演出している。

 

そして倉橋氏の曲の最大のツボはそのドMな歌詞だ。恋の曲であるのに「損と嘘」。失うものが多くても、騙されることがあっても、あなたを想いますという曲だ。その愛は大変に重く、真っ当な人なら「うわあ…」と引くようなもの。性質の悪いのは、自分がろくな目にあっていないのをわかっていて、それを受け入れるのも愛と思って喜んでいるところだ。どうあってもこの後破滅が待っているのにも拘らず、「損と嘘~」と歌う倉橋氏の声は心底喜んでいる女性のもののようであり、これこの人の実体験なんだろうなと思えてしまう怖さがある。ただし彼女の他の曲を聴くと、この曲は比較的ライトなものだということがわかるのだ…。

 

こうして私は彼女の音源を集め始めたのだが、翌年「これですべてを出し切ることができた」と音楽活動を辞めてしまった。近年になって別名義で活動を再開しているのではという噂も流れたが、真相はわからない。この唯一無二の“倉橋ヨエコ”というジャンルをずっとそばで聴いていたかったのに。この想いは損でも嘘でもないのだが。