先日、「ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール」が発売された。「とうとうこの時がきたか…」と私は何とも言えない気持ちに襲われた。そしてそれは思い出のゲームのリメイクを喜ぶ想いではなかった。
私は初代よりポケモンをプレイしていた。「ダイヤモンド」と「パール」が発売された時は受験生だったため、さすがに手を出さなかったものの、その存在を忘れつつあった暇な学生時代の頃に「プラチナ」が発売されたので、「ファイアレッド」以来にポケモンの世界へ飛び込んだ。後はもう厳選やら育成やらのレベルですっかりハマってしまったという次第である。
厳選に疲れた私は、ブラックホワイトに手を出すこともなく、そこでポケモンを卒業した。つまり「ダイパプラチナ」という青春が、私の中ではポケモンの最新作として時を止めているのである。そして今年、その「最新作」のリメイクが出ているのである。リメイクしてもいいだろうと思われるぐらいの時間がすぎていた。要は「若いままのつもりだったのに、思っている以上に時間が経って歳を取っている…!」という事実を私は受け入れたくないのだ。ただそれだけの話。
しょうもない駄々コネはこれぐらいにしておいて、そんな思い入れのある作品なのだから、もちろんBGMだって大好きだ。
まずはコトブキシティ。
主人公が最初に訪れる「シティ」であり、今までの「タウン」に比べて都会的な街並みが印象的だ。エレピやウッドベースが響くジャズっぽい曲調で、初めて街へ足を踏み入れた主人公に「君も一人前だ」と優しく語り掛けるような雰囲気すら漂わせるオシャレな一曲。
続いて「戦闘!ジムリーダー」
ジムリーダー戦のBGMはどの作品でも緊張感があるが、この曲もやはり凄まじい。うねるベースや所狭しと暴れるティンパニ、同じフレーズかと思いきや二度目は少し変化を入れて禍々しさを強調させるストリングス。地の底から大地を揺らすがのごとくプレイヤーをドキドキさせてくれる。
そして一番好きなBGMがこの「ハクタイシティ」
入りだけ聴くとウッドブロックや笛の音が響く牧歌的な曲なのだが、ハーモニカっぽい音が入った頃から少し切ない雰囲気が漂ってくる。メロディはサックスに代わり、ピアノもコードを叩きつけるようなジャズっぽい曲調へ変化し、これでもかというぐらいの盛り上がりを見せる。そしてここから急なテンポダウンがあり、元の曲調へと戻る。初めて聴いた時の衝撃は今でも覚えている。街を走る足が止まり、このBGMに聴き入ってしまったのだ。この曲はカンナギタウンでも使われているのだが、“歴史のある町”という共通点が挙げられる。ハクタイシティは「むかしを いまにつなぐ まち」でカンナギタウンは「むかしを つたえる まち」と説明されていることからも明らかだ。今日に至るまでこの街でも色々なことがあったのだろう。しかし時は流れてそんな出来事も全て過去となり、変わらない静けさが今日も街を包む。そんな壮大な歴史を表現しきってしまった名曲だと私は思っている。何よりここまでギターのフレットノイズを多用するBGMがポケモンに存在するのも驚いた。
自転車BGMもやっぱり好きだ。
メロディは長いスラーが印象的で、風を突き抜けて進む爽快感がある。パーカッションやシンセのフレーズが細かいのは、あっという間に過ぎ去っていく風景を表しているのだろうか。後半のストリングスやフルートは、どこか少し切なくて、それでいて温かい気持ちになる。前半が自転車に乗っている子どもの気持ちだとしたら、後半はそれを見守っている大人の気持ちを表現しているかのようだ。
「210ばんどうろ」もいいよね。
道路のBGMとしては、一つ前の「209ばんどうろ」が人気だが、冒険感溢れる「210ばん」もたまらない。エレキギターのカッティングやスラップベースの鳴り方がマシンガンのようで、ここだけBGMがワイルドすぎる。この道路は轟々と流れる滝や背の高い草、前が見えないほどの霧が立ち込めるなど、自然の壮大さがぎゅっと詰まったエリアなので、こういう曲調になるのも納得がいく。
一番聴いたのは間違いなく「バトルタワー」だろう。
近未来を予感させるようなシンセの音が重なる一方で、ライドシンバルがテンポよく鳴り、後半にはギターなどの生楽器の音も勢ぞろいする。データに基づいてポケモンを選ばなければならない冷静さと、一度も敗北が許されない緊張感に燃える情熱とがマッチした素晴らしいBGMである。
そして最も緊張するBGMといえば、なんといっても「戦闘!フロンティアブレーン」だ。
四つ打ちのバスドラが速いテンポでドムドムと鳴り続けており、強敵(大体ネジキ)と戦っている時の心臓のバクバク感が上手く表されている。鐘の音はフロンティアブレーンの荘厳なオーラを強調し、他の楽器もまるでメタルの曲調であるかのように荒ぶっている。ジムリーダーや四天王、チャンピオンのBGMとも異なり、公式試合というよりかはあくまでも記録更新を目指す戦いだからか、曲そのものに緊張感があるわけではない。しかしやり直しなど存在しないバトルフロンティアにおいて、目がバッキバキになった状態で爆笑しているようなテンションの高いこの曲は、話し合いの通じない相手と面しているかのような危険信号が滲み出ている。ちなみにバトルタワーにおける私の最高記録は118連勝であり、119戦目で一撃必殺技を連発されて目の前が真っ暗になったことを今でもよーく覚えている。
というわけで好きなBGMの一例を挙げてみたが、やはり思い入れのあるゲームについて書くと文字が随分かさんでしまう。そんなに好きならリメイク買えよと思うかもしれないが、厳選に疲れたのもあるし、思い出は思い出のままそっと閉まっておきたいという気持ちもある。たまに電源を入れて、その思い出を眺めるぐらいが丁度良いのだ。