ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

KIRINJI/ブラインドタッチの織姫

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「RUN AWAY GIRL 流れる女」というドラマが2005年、BSフジで放送されていた。私が見たのは再放送版だったので2007年のことなのだが、これが今まで見たドラマの中でも屈指の面白さだった。

 

主演は高野志穂氏とバナナマンの二人で、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏が監修、リレー形式で脚本家が毎回変わるという、かなり異色のコメディ作品だ。番組表を見た時にもジャンルが「バラエティ」になっており、そこから興味を持って見始めたらハマってしまい、毎週爆笑しながら続きを待ちかねたものだ。

 

そのドラマの主題歌が、KIRINJIの「ブラインドタッチの織姫」だった。

恋愛に縁のない女性にアプローチする主人公の歌だろうか。キャッキャと恋愛話に花を咲かせる同僚から離れ、PCのキーボードを素早くカタカタと打つ女性。「気遅れて」ということから、興味はあるんだけれど、そこに入れない。そんな女性に対して「拾う神」こと主人公は、なかなか余裕があるというか、オシャレな口説き文句を並べるのだ。キスを「着弾」と喩える歌がかつてあっただろうか。

 

そんな素敵な世界観の曲だが、曲の構成がこれまた非常に素敵なのだ。イントロは各楽器が同じフレーズを順番に弾くという、一風変わった入り方で始まる。そこにスネアの頭打ちでサビが入るのだが、このサビがなかなかの曲者だ。Cのコードから始まるオーソドックスな曲調かと思いきや、五小節目だけ急にシャープが二つ増えたBメジャーのコードがやってくる。一つ下のキーのメジャコードがすぐ近くに置いてあるっていうのは、転調でもしない限り滅多にないのだが、これをサラっと入れてきて、すぐに元のシャープの数に戻っていく。

 

そして同じフレーズをもう一度繰り返すかと思いきや、サビ15~16小節でF7→A7となる。F7はB♭のメジャーの、A7はDのメジャーをそれぞれキーとする曲でよく使われるコードだ。それをCメジャーの曲の、それもサビ16小節の間にこっそり入れるこのセンスたるや。Cの隣近所にあるコードを敢えて入れるのは、恋に出遅れるヒロインに、「拾う神はすぐ近くにいるものだよ」という主人公の心情を表しているのではないか、と思うのは考えすぎかもしれない。

 

使っている楽器はバンド編成でよく見られるものばかりだが、山下達郎氏を彷彿とさせるコーラス、時折使われるボーカルのダブリング、温かみのあるシンセ、クールにうねるベース、ソリッドなドラムが、脳の気持ちよいところを突いてくるような多幸感をもたらしてくれる。ラスサビではD♭に転調し、雲の上に飛んでいく恋愛の喜びに気づいてしまったような感覚すら味わえる。

 

とにかく静かでアナログでポップ。冨田恵一氏プロデュースのこのepは、そもそもタイトルに「スウィートソウル」とあるように、70年代のソウルを日本のシティポップとゼロ年代の音で再構築してみたと言わんばかりの一枚となっている。美味しい所を凝縮させ、なおかつ余計なものを削ぎ落とした洗練された曲の数々は、KIRINJIの音楽観をそのまま表しているようだ。

それはさておき、「RUN AWAY GIRL 流れる女」のDVD化or配信をずっと待っているのは私だけではないはず…。