ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

川村ゆみ/Found Me

2008年に始まった「ペルソナ ~トリニティ・ソウル~」というアニメがある。「ペルソナ3」を原案としたオリジナルアニメだ。ペルソナプレイ済みの人からすると「ペルソナとは別物」らしいのだが、未プレイの私はすんなりと受け入れることができた。そしてその物悲しく、”兄弟愛”を描いた完成度の高いアニメにどっぷりとハマっていったのだった。

 

このアニメは2クールであり、1クール目は外国から帰ってきた主人公の慎と弟の洵が「影抜き」と呼ばれるミームに巻き込まれたり、なぜか兄の諒に冷たくされたり、体が裏返る「リバース事件」やその裏側に潜む謎の組織と戦ったりと、何が起こっているのかわからないまま物語が進んでいく。

 

1クールの終わりで衝撃的な結末を迎え、そこから半年後に時系列が動いて2クール目が始まる。1クール目で伏せられていた謎が次々とわかっていき、最終話周辺では怒涛の勢いで伏線が回収されていく。同時に慎や洵を次々と悲劇的な展開が襲っていくのだが、その切ない2クール目に流れてくるEDが、この「Found Me」だ。

 毎話毎話切ない終わり方を迎える本編について、重たい口を少しずつ開くように、ピアノとシンセの音から入るイントロ。そのままAメロはピアノ一本とボーカルで進む。Bメロからドラムやベースが入り、感情の昂りを見せる。編成としてはオーソドックスだ。しかし夢を見ることに臆病になり、自分の精神的な弱さを歌った歌詞との相性は良く、それでいて何かが動き出していくような盛り上がりに、心が引き込まれていく。

 

「涙を拭った後には新しい自分に出逢える」という歌詞からサビは始まる。臆病に閉じこもっていた自分が、悲しみという心の痛みに涙を流す。しかし涙を拭いた時、人は成長し「新しい自分」になっているというものだ。さらに「すべてを失くしても 見つけられるものがあるから 消せない傷もいつか私らしい誇りにできる」と続く。心についた傷は消えないが、涙を拭くことを決意して歩き出す自分は確実に強くなっており、「私らしい誇り」と言えるようになるという。こんなにもしっとりとしたバラードなのに、なんとまあ力強いフレーズだろうか。

 

サビが終わり間奏に入る。コードはイントロと同じなのだが、編成はサビと変わらず、さらにそこから二番に入るのだが、ここも一番の時より楽器が増えて賑やかになっている。つまり曲の編成も時間が経つごとに力強さを描いているのだ。歌詞も力強くなってきているが、2番Bメロで「孤独を消すことは出来ないけど きっと分け合うことは出来るよ」と、悲しみに立ち向かっていく自分を支えてくれる仲間の存在が示される。ここまで仲間の描写などなかったのは、ふさぎ込んでいた自分には気づかなかったからだろう。前を向いたことで気づいたのだ。そしてサビで「誰もが一人じゃないから笑ってまた強くなれる」と、みんなで悲しみを乗り越えていこうと励ましてくれる。

 

2番サビが終わり、最も感情の昂りを見せる間奏になるが、その後急にイントロのようなシンプルな編成のサビに入る。ついさっきまで弱気だった自分をふと振り返り、「新しい自分」になるための最後の決断をする姿が描かれているようだ。そして葛藤の末に自分が出した結論は「もうあきらめたりしない」だ。

 

それとともにガラスが割れたかのように編成の盛り上がりが再来する。そして「夢見てたあの場所」を目指してまた一歩進んでいくのである。

 

情緒的で味わい深い歌詞であるが、これは理不尽な悲劇に苛まれながら、仲間と共に進んでいく慎や洵の心を描いているかのようだ。最終話の「バス停まで競争しよっか」「いや、歩こう」の会話なんて、まさにこの曲で歌っている内容とシンクロしている。

 

しかしこの歌詞は、兄の諒に対する気持ちも歌っているんじゃないかなあと個人的に思っている。やたら弟達に冷たくする諒兄ちゃんの真意は終盤になりわかっていくのだが、彼が背負っていたものは、人ひとりが孤独に抱えるにはあまりにも重すぎるものであった。自分をずっと責め続けてきて、それでも過酷な運命に立ち向かっていく諒兄ちゃんの姿は、酷く悲しいものである。そんな諒兄ちゃんに弟ながら手を差し伸べる慎の姿も見て取れるのだ。

 

このアニメは一周目と二周目で見方が大分変わる。一周目は未知の脅威に翻弄される慎の視点で楽しみ、二周目は緻密に張り巡らされていた伏線に気づくと共に、諒兄ちゃんの視点で物語を味わっていく。今思っても、これぞ名作というアニメであった。

 

こういう暗くて地味なアニメがやっぱり好きなのだが、調べたら脚本を「DARKER THAN BLACK」と同じ人が書いていた。納得。