ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

PSG/かみさま

2009年のヒップホップ界に衝撃を与えたアルバム「David」。リリースしたのはPUNPEE、5lack、GAPPERで構成された「PSG」だ。このグループの放ったアルバムは、ギャングスタでもなく押韻主義でもなくポエトリーでもなく、脱力的で摩訶不思議な魅力に包まれた異様な作品であった。

 

そのアルバムを象徴するような曲がこの「かみさま」だ。

5lackのヴァースは他の曲になってしまっているので、このPVではPUNPEEとGAPPERのヴァースしか聴けないが

太めのキックとスネアはヒップホップらしさ満点なのだが、フィドルの奏法で響くバイオリン、エイトビートで鳴り続けるトライアングル、控えめに聴こえてくるアコーディオンと、ブラックミュージックであまり使われない楽器が目白押しだ。この異質な組み合わせのトラックが「かみさま」というテーマと一つになることで、どこか宗教的な怪しさを生み出すことに成功している。

 

ちなみにこのトラックの元ネタについて言及されることが少ないのだが、ブラジルのミュージシャンZeca Baleiroの「Pagode Russo」という曲をサンプリングしているのである。

モスクワでコサックダンスを踊る歌であり、二拍子のアコーディオンはロシアやウクライナ民族音楽を彷彿とさせる。あの独特なリズムがラテン音楽と交わり、それをトラックメイカーのPUNPEEがヒップホップと融合させて「かみさま」は出来たのである。もはやキメラのような合成っぷりだ。

 

そんなPUNPEEのヴァースは、まったくもって熱心でない祈り方をするものになっている。「神様」なんてろくに信じていないから、「かみさま」という平仮名のタイトルになるのだろう。どことなく外国語のようなフロウがその適当さに拍車をかけ、唯一無二のバイブスを生み出している。

 

GAPPERのフロウは(このグループの中では)タイトめで、音に合わせて韻も固く踏んでいる。PUNPEEと5lackがフワフワとしたラップをする中、彼のフロウはとても良いアクセントになっている。しかしリリックは三人の中で最も不可思議で、「見た目普通なヤツが一番怖かった」という事態が発生している。

 

5lackは兄のPUNPEEとどことなくフロウが似ているが、もう少しエッジを効かせたものになっている。リリックに関してはもはや“神様に向かって話しているらしき得体の知れない人”のようであり、その独特なフロウと相俟って、意識がどこかに飛んでいってしまっている気すらする。

 

先ほどこの曲をキメラと称したが、PSGというグループもまた個性の塊を混ぜ合わせた合成獣のようである。それでいてこんなにも魅力的な曲が出来上がるのだから、かみさまはキャパの範囲で彼らに力を貸したのかもしれない。

 

ちなみにアウトロのあたりの「Oh, My God!」はDoug E. Fresh「The Show」のサンプリングなのだが、なぜここで急に出てきたのだろうか。