あれは学生時代、バイトでリーダーをしていた時だったか、バイトリーダーが三人いる職場だったのだが、上半期を終えて社員さんがリーダーを対象にお疲れ様会を開いてくれることになった。私はその日バイトがなかったので現地集合であったのだが、業務終了が午後11時という少し特殊な仕事だったため、社員さん×2と午後11時30分に集合した。一週間のど真ん中での深夜の飲み会だ。なんてハードなんだ。
その飲み会の後、我々はカラオケへ行くことになった。朝までオールだそうだ。平日仕事終わり深夜だというのにこれほどまでに元気であるため「この社員たちは無敵なのか…?」と思った。そこで一緒にリーダーをしていた女の子が入れた曲、それがきゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」だった。私はきゃりーぱみゅぱみゅという名前は聞いたことがあったのだが、歌を聴くのは初めてだった(本人の声ではないが)。またそのカラオケの映像では本家のPVが流れてきて、その女の子には申し訳ないのだが、独特な世界観やクオリティの高いPVに目が釘付けになった。
きゃりーのビジュアルは今までにないタイプの可愛さだと思った
どうでもいい前置きはこれぐらいにして、今更「つけまつける」について語ってみる。いやもう本当に今更だ。最初のサビはきゃりーのアップから入る。気が付きにくいのだが、四拍目できゃりーが必ずまばたきをするのが印象的だ。音圧ヤクザと名高い中田ヤスタカ氏の作る音色は、イントロからもうバッキバキなのがよーく伝わってくる。DTMをやっている人間からすると、これだけ色々な音が鳴っていて、ここまでの音圧を作ることができるのは不気味で仕方ない。
コード自体はBメロ以外ほとんど同じであり、Dmaj7をこれでもかと連発してくるイ長調の強気な進行である。一方のBメロはかなり異質である。ソのシャープが取れてト長調になったかと思えば次の小節では嬰ヘ短調→ヘ長調(コードはFadd9なのでわかりにくいが)→ホ短調→変ホ長調と、一小節ごとに転調を繰り返しているのだ。この曲に限った話ではないが、ヤスタカ氏はBメロでコード進行の粋をよく利かす。んで、何事もなかったかのようにサビへ移るテクニックは圧巻である。
さて、きゃりーの世界観は原宿系だそうなのだが、このPVに関していえばさくらももこの世界観のようにも思えた。単なるカワイイ系ではなく、摩訶不思議なダンスや曼荼羅のような背景、着ぐるみを脱いで出てくるのはインチキおじさんならぬキレッキレのダンサーなど、その系統を継いでいるような気がする。しかしその世界観を煮詰めるとここまでカッコよくなるのだから素晴らしい。
なお朝まで歌った我々は朝マックを頬張った。私は丁度その日授業がなかったので、その後家へ帰ってグッスリと寝ていたのだが、社員×2は昼からまた仕事へ行ったそうな。社会人は斯くあるべきかなと思っていたのだが、そのうちの一人は翌年に別店舗へ異動となり、そこで業務を放り出してそのまま辞めてしまったとか。心の角度が小さくなって、やがてなくなってしまったのだろうと、オチをつける。