BS朝日で放送されている小林克也のベストヒットUSAという長寿番組がある。毎週アメリカのヒットチャートを紹介していく番組なのだが、そこで私はボーカルのInara GeorgeとキーボードのGreg Kurstinで構成される「the bird and the bee」というユニットを知ったのであった。
大学生の私の耳と心に刺さるには、充分すぎるぐらいオシャレでポップでキュートな曲だった。日本でいうところの渋谷系に似ているだろうか。ブリティッシュな曲調だなあと思って調べたら、アメリカのミュージシャンでした。意外。
サビから入るこの曲は、エレピの浮遊感、ハ短調で始まったかと思いきや三小節目でいきなり嬰ヘ長調に転調(レに#がついているので、嬰ヘでいいのかな…?)しているメチャクチャな進行、Inaraのエアリーな声という、フワッフワ要素が最初の八小節で全部詰まっていて、この曲がどういう曲なのか全部わかるようにはなっているのだが、一体どうなってしまうんだろうという不安も併せ持つ、とびきり奇妙な展開だ。
嬰ヘ長調に変わったAメロからアコギやクラップ、ドラムマシンが入ってきてオーソドックスな編成になるのだが、よーく聴くとベースがいない。あれ?なんで?と思ったら五小節目からおよそベースとは思えないようなノイジーな音が混じってくる。そう、ベースを飛び道具として使っているのである。
再びサビに戻ってくる。編成はAメロのものを引き継いでいるのだが、サビの真ん中で雷をサンプリングしてフィルターかけたような音が聴こえる。シンセで作った音なのかなあと思っているが、今でもこの音の正体がわからない。
二番サビ終わりの間奏は、この曲で最も浮遊感の強い箇所だ。アタックの弱いシンセが鳴る中にInaraの声がフワフワと漂う。彼らの好きなサイケデリック要素の発揮された部分ではあるが、曲調が上品なのでサイケ特有の無秩序感は皆無に等しい。ドラムのキックがここだけTR-808っぽくなってるのも、遊び心を感じる。
こんな上品なポップスなのだが、歌詞は大いにエロティックだったりする。直接的な表現は避けているが、要約&意訳すると「簡単でぞくぞくしてとても恥ずかしいけれど、何度もお互い求めあってしまうものよね」という、色っぽくてセクシーな歌なのだ。曲の雰囲気から入ってしまうので、歌詞の意味がわかってから彼らのサイケデリックな部分を思い知らされるのである。そもそもこのユニットの名前には、英語のイディオムで「性の基礎知識、手ほどき」という意味があるそうだ。なるほど、そりゃそういう歌詞になるわけだ。すごい合点がいく。
この曲が収録されている「The Bird And The Bee」というアルバムは、1960~70年代のポップスを思わせながらも、モダンで前衛的な音作りに拘っている。歌詞も過激なものから精神世界を揺蕩う哲学的なものまで包括した、やはりサイケ要素の強いものが多かったりする。誰かと聴くような音楽ではなく、一人きりの静かな時間にこっそりと楽しむ一枚なのだ。