ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

RYO the SKYWALKER/忘れておしまい

「晴れわたる丘」でRYO the SKYWALKERを知った私が手に取ったアルバム「ONE-DER LAND」。その中で一番好きな曲がこの「忘れておしまい」だ。

この曲はケン田村という80年代のAORミュージシャンの曲をレゲエでカバーしたものである。

とはいっても元の歌詞にリリックが追加で書かれており、元曲の魅力は残しながらも、レゲエのリディムも合わさってRYOの魅力が凝縮された名曲だ。

 

ファンキーなギター、コードが優しく響くピアノ、左で鳴り続けるトライアングル、メロディアスに自己主張をするベースライン。至ってシンプルだが、RYOのガラガラボイスを活かす構成となっている。

 

そしてこのガラガラボイスでRYOが優しく語り掛けるように歌うところが、この曲の最高の魅力だ。歌詞もとても優しい。「もしもあなたが泣きたい時には どうぞ僕の腕の中で 死ぬほど好きなあなたをもう独りぼっちにはさせない」「そしてあなたも恋をしたなら どうぞ笑って見せて つらい昔は悪い夢と忘れておしまい」というフレーズが印象的だ。自分の好きな人が悲しい恋をしたため慰めている。今はそんな関係でいいのだが、いつか自分のことを好きになってくれたら嬉しい、というものだ。意地らしいというか切ないというか、片思いの歌なのよね。

 

ところがRYOが付け足したリリックは少し違うんですよ。そもそも曲の入りが「君と過ごしたもうこない夏」であり、その後も「記憶の中に流れるメロディー 甘く苦くかすれてくメモリー」「目を閉じればあん時の香り」「あったかい思い出どれも忘れない」といったように、全部過去の思い出の話として歌っていて、どうにも実った恋の歌としては聞こえない。原曲では「忘れておしまい」で歌が終わっているが、この曲は「君と過ごしたもうこない夏 遠回りしたロングバイパス あれからどんくらい経つ?」という過ぎ去った思い出の言葉で終わっているのだ。

 

この曲には時系列があるように思う。

①他の相手と悲しい恋をした「君」を「辛い昔は忘れておしまい」と慰める「僕」。この時点で「君」はまだ「僕」を好きではない。

②花見や遊園地でデートを重ね、結ばれた「僕」と「君」。

③「あれからどんくらい経つ?」と言うほど時間が経ち、②の頃のことを「君と過ごしたもうこない夏」「あったかい思い出」として捉えている時期。

 

以上三つの時期がある。したがってこの曲は、“辛い恋を僕が忘れさせてあげるよ”という温かみのあるイメージが強いが、実は失恋ソングなのではないかと私は勝手に思っている。

 

「辛い昔は悪い夢と忘れておしまい」と「僕」は優しく語り掛けるが、「僕」にとって「君」との恋は「あったかい思い出」なので、それが終わった恋だとしても、今の「僕」は「どれも忘れない」のだ。

 

昔の楽しかった恋をふと思い出して、心をギュっと包まれるようなあの何とも言えない切ない気持ちをこの曲に感じるのは私だけかもしれない。しかし「忘れておしまい」と言われても忘れられない思い出は、確かにあるのだ。

1995年にレゲエでカバーされているので、RYOの曲はひょっとしたらこっちのカバーなのかもしれない