ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

Dick Lee/WO WO NI NI

高校生の時の私が何の気なしに物色したCDの中に、ひと際インパクトのあるジャケットを発見した。それが「the mad chinaman」というアルバムであり、京劇スタイルの風貌をしているこの人物こそが、Dick Leeという中国系シンガポール人のミュージシャンである。何気にポンキッキーズにも曲を提供していたりする。

 

彼はこのアルバムを出すまで鳴かず飛ばずだったそうなのだが、ラストアルバムのつもりで出したこの一枚が大ヒットして有名になったとか。シティポップ風の曲調で綴られる打ち込み中心のアルバムは、TR-808がリズミカルに鳴っていたり、ラップがあったり、やりたいことが詰まっているのだが(迷走していただけだったりして)、シンガポール訛りの英語を東アジアの民族的な響きに乗せているのはアルバム通して一貫している。なかなか他に例を見ない作品だ。

 

その中でも最も印象深い曲がこのWO WO NI NIである。

銅鑼と月琴と二胡のような音が鳴り、「中国語では“I”を“我”、“You”を“你”という…」という解説からイントロは始まる。おおっ、中国系の曲だ…!と思ったら四つ打ちのキックとハイハット、ピアノでサビが続き、あれ?普通のポップスじゃん?となる。しかしイントロでさせた期待は裏切らないのがDick。ちゃんとサビの9小節目からイントロの楽器隊が厚いコーラスを引き連れて帰ってくる。メロでは笛子も入ってきて一層中国っぽさが強調されるのだが、英語の歌詞と小気味よいリズムが相俟って、中国の曲でもなく、西洋のポップスでもなく、彼のルーツそのものが描かれたようなオリエンタルな雰囲気のまま曲は進んでいく。

 

歌詞は恋の駆け引きを楽しむものになっている。主人公は相手のことを好きでたまらなく「Whenever you need me I hurry come to you I won't be late(君が僕を必要とする時はいつでも急いで行くよ」なんて言っているくせに、「But next time you need me I say I have another date(でも今度何かあったら別のデートがあると言うよ)」と言う。このヤキモキする感じが楽しくていいのよねえ。

 

ちなみのこの曲は潘迪華という香港の女優兼歌手のカバーなんだとか。