ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

HEATWAVE/オリオンへの道

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HEATWAVEのことについて、私はよく知らない。だけどこの曲はずっと前から知っている。父がよく聴いていた曲で、気が付いたら自分も知っており、後年に「あの曲なんだっけ?」と調べて辿り着いたパターンだ。

 

この歌はHEATWAVEが1995年に出した曲である。1995年というのは阪神淡路大震災地下鉄サリン事件が起こるなど、世紀末の雰囲気も相まって、何かが終わっていく時期であった。フロントマンの山口洋氏はそんな世相を反映させてか、佐野元春氏をプロデュースに迎えて、「再生」をテーマにこの曲を書いたようだ。

すごく切なくて、それでいてとてもポジティブな曲である。ゼロからの出発ということだろうか、何かを失ってしまった主人公が立ち上がって前へ進んでいく、再出発の歌だ。一見すると「君」と別れた主人公が、もう一度「君」と会おうとするラブソングのようである。

 

二番の「君は相変わらず美しく 僕はひどく年をとっていた」という部分が好きだ。とても大事な人と別れた後、夢で出てくるその人の姿は当時のままだ。しかし自分は年齢を重ね続けるからどんどん老いていく。この悲しさたるやどうだろう。ただ個人的な解釈になるが、年をとった自分というのは“心”なのだと思っている。夢で自分が出てきた場合、大体当時の背格好になる。だが夢の中の自分が持っている価値観だとか物の見方などは今の自分のままだ。つまり精神的に年を取った「僕」が当時の「君」と会った時に、経過した時間の差に直面して、どうしようもない老いを感じるのだろう。

 

さて、曲のタイトルにも歌詞にも入っている「オリオン」とは何だろうか。私はズバリ“希望”だと思っている。曲中の「僕」にとって「君」に会えることは非常に難しいようだが、それでも「僕」は諦めずに前へ進もうとしている。しかし先述のように、この曲は悲惨な事件・災害からの「再生」がテーマの曲であり、タイトルを例えば「君への道」にしてしまうと、ジャンルがラブソングに限定されてしまう。未だかつてないような悲劇=「夜」から希望を持って立ち上がる意味を持たせるためには、普遍性が必要である。そこで希望を込めた言葉として「オリオン」をチョイスしたのだろう。人は希望を探しているし、希望は自分の前に輝いているし、いずれその希望にたどり着いて越えていかなければならない。冬の夜空に燦然と輝くその星の名前は、希望を表すのに相応しい。

 

「応援ソング」というと俗っぽくなってしまうが、そんな意味の込められた歌詞を乗せる曲もまた素晴らしい。ワウのかかったギターで始まるイントロが、感情のうねりを表現しているようで、それをドラムとベースのゆったりとしたリズム隊が、一つ一つ歩んでいく自分を心強く支えているようだ。たっぷりと使われたシンセやリバーブは時代を感じるが、広い世界へ向かっていく歌詞との相性もあるからか、古臭さは全くない。そんな音の一番上に輝いているのが山口氏の情念的な声だ。絶望から立ち上がるような力があるのだけれど、優しさの溢れた温かさもある不思議な声である。これら全てが合わさって、パワー溢れる作品に仕上がっているのだ。

 

山口氏は後年「人は永遠にやり直しながら生きていくんだと思うよ。『オリオンへの道』とか(中略)歌の方が当時のオレより先を歩いてたんだって、この頃思うんだ(中略)最近はそれらの曲を歌いながら、歌の風景に励まされて、オレはまたやり直してる感じなんだよ。ヘンな感覚なんだけどね。」と言っている。当時作った自分でさえ、この曲の持つポテンシャルに気づかなかったというのも凄い話だ。

 

今年は昨年に比べて複雑な業務量が増え、できないことを多く痛感させられた年だった。でも汗を流し、胸を焦がし、腹をすかせる毎日を続けていく限り、一つずつ成長できていると信じたい。そんな自分の心にもオリオンは輝いているだろうか。