ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

SEKAI NO OWARI/虹色の戦争

f:id:majaraka:20211103210711j:plain

一時やたらと話題になっていたSEKAI NO OWARI(以下セカオワ)。私が初めてこのバンドを知ったのは、10年以上前のスカパーの「今注目のインディーズアーティストのPV集」的な深夜番組だった。そこで偶然流れてきたのが「虹色の戦争」である。

私は首を傾げた。「えっ、どっちがアーティスト名で、どっちが曲名…?」。当時このバンドは「世界の終わり」名義であり、こっちのほうが曲名っぽいなあということで、最初私はこのバンドを「虹色の戦争」だと思っていた。もっとも聴いていくうちにこちらが曲名だということはわかっていったのだが。

 

次に驚いたのがバンド編成である。ボーカル兼ギター、ギター、キーボード、DJという滅法変わった編成なのだ。この並びのバンドを他に私は知らない。DJはなぜか白Tシャツのピエロであり、イントロからノリノリで踊っている。カメラはずっと上からの視点であり、いまいちメンバーの様子がわからない。何よりイントロは非常にポップである。ここまででまだ30秒ほどであり、余りある情報量が流れてきて、このPVから目が離せなくなった。

 

Aメロで聴こえてくるFukase(当時は「深瀬」名義だったか)の声とビジュアルがまた印象的だった。声変わりしたぐらいの少年の声というのだろうか。あまりバンドタイプのグループで聴かないタイプの声だ。ビジュアルも神木隆之介君に少し似ていて、役者顔だなあと思った。そこにカットインしてくるキーボードのお姉さんSaori。弾いているローランドの電子ピアノといい、この人もまたバンドっぽくない。こういったPVでキーボーディストが弾くのはアップライトかシンセ(大体Nord)が定石であるのに、彼女はFP-4という「The 電子ピアノ」を弾いているのだ。 服装も普段の私服を着てきました的な感じで、これまたPVっぽくない。そしてちょいちょい出てくる謎ピエロ。ギターのNakajinだけがちゃんとバンドっぽい雰囲気を醸し出している。いや一体どういうことだ。

 

そんな不可思議なバンドが歌うこの歌の歌詞は、Aメロから不穏だ。最初こそよくあるような言葉だが、Aメロ終わりで「偽物の自由の歌が爆音で聴こえるだろう」と締めくくっている。「自由」「平和」の歌詞の最後が「爆音」という、あまり見られない組み合わせであり、ここで「ん?」となる。そこからBメロで「鳥籠の中で終わりを迎え『自由』は僕になんてて言うだろう」と、うっとりした表情で歌いあげるFukase。不穏な歌詞と表情が嚙み合わず、どうにも雲行きが怪しい。

 

その不穏さの正体はサビで判明する。「貴方が殺した自由の歌」とくるのだ。これは二番も聴くとより確かなものになるのだが、人間にとっての「自由」と「平和」は、他の動植物を蹂躙し、その犠牲の上に成り立っているものであり、そうとも知らずに「自由」と「平和」を謳っている人間の烏滸がましさを、この歌は訴えているのだ。目をひん剥いてそんなメッセージを歌いあげるFukaseの姿に軽く引いたものだ。しかしちょっと危ない雰囲気でカウンターカルチャーチックな歌を歌いあげる姿は、実にロックではないだろうか。バンドの初期衝動っぽさも十二分に感じられて良い。サビのコードは斉藤和義氏の「歌うたいのバラッド」とほとんど同じであり、これまたこの曲のロックさに拍車をかけている(ような気がする)。

 

さてこの曲で私が最も好きな箇所はアウトロだったりする。突然DJ LOVEがボコーダーでかなり皮肉的な歌詞を英語で歌いだす。ある意味最もロックな箇所であるのだが、ポップな曲調にピエロがこんな調子で声を乗せるのだから、どこか楽天的ですらあって、そのギャップがまた独特な魅力を生み出している。花や虫やセカオワはそんなことを考えてしまっている私になんて言うだろう。