ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

The Avalanches/Frontier Psychiatrist

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ここまで変態的なミュージシャンは他にいないのではないか。

 

もう15年以上前のこと。父がジャケット買いしてみたものの期待外れだったので、この曲が収録されているアルバム「Since I Left You」を私にくれた。よかったものではなく、自分が不必要な物を共有したがるのが父という人間だ。

 

私も聴いてみたわけだが、収録曲が一つに繋がっており、トラック番号は存在するものの、そこから再生してもぶつ切りのように始まる。うーん、これは微妙だなと思った。ジャケットをめくってみると、英語の文章が本のようにビッシリと書いてあって、全く意味がわからない。しかしながら「Frontier Psychiatrist」というこの曲は、妙な癖があって少しばかり気に入ったのであった。

ジャンルでいうとヒップホップだろうか。ラップではなく不思議な台詞が入っており、スクラッチが多用されている。曲にしてもPVにしても遊び心が豊富で、聴いていて楽しくなる。

 

そんなわけで私のMP3プレーヤーのリストに入り、登下校の途中に繰り返し聴く一曲となった。この謎のグループを知っている人など周囲におらず、特に何を掘り下げることもなく、私は別の音楽を探していた。

 

そこから数年後、ふとThe Avalanchesをネットで調べてみて驚愕の事実が発覚した。このアルバムで鳴っている全ての音はサンプリングだというのだ。意味がわからなかった。ヒップホップ界隈ではサンプリングを使うことがあるが、ウワモノに一つ二つ使う程度だ。声も楽器も効果音も、何もかもが全く別の曲や番組から引っ張ってきている。なんという気が遠くなる作業だろうか。この曲だけでも27曲をサンプリングしているという。ジャケットの裏にビッシリと書いてあったものは、アルバムで使用したサンプリング元の表記だったというわけだ。マジかよ。

代表的なものをいくつか紹介しているが、この動画だけでもドン引きである

このThe Avalanchesというミュージシャンはどれだけ音楽が好きで、どれだけ音楽を聴きこんでいるのか。音楽界におけるスイミーなのよ。特に大きいわけでもない、なんか変な魚がいるなと思ったら、900匹の超小魚で構成されているっていう。それを感じさせないぐらい彼らは綺麗に泳いでいて、そしたらもうね、ドン引きしてこの曲を軽く聴き流せなくなるのよね。

 

こんなアホみたいなアルバムを一枚出して以降、彼らは音源を全く出していなかった。そりゃそうだ。一枚作るのにどれだけの時間と労力と許可を用いねばならないのか。もはや伝説となって語り継ぐ(誰に話したものか?)存在かと思ったら、2016年にセカンドアルバムを出していた。16年かけて作ったのか…。セカンドの「Wildflower」はラッパーを連れてきてラップを乗せるなど、全音サンプリング路線を止めていた。しかしながら自由度が増した分、ポップな曲も増えていたのが特徴的だった。

 

2020年にはサードアルバム「We Will Always Love You」を出していた。前作から4年という、Avalanchesにしてはハイペースなリリースでだ。これもまた完成度が高く、やはり変態的な天才が作る曲というのは上質でスイートだと言わざるを得ない。どうでもいいけれど「変態」と「天才」って韻踏んでるな。