ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

KIRIKO/セパレイトブルー

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15年ぐらい前だろうか、エロゲーに音楽を提供するKIRIKO/HIKO Soundというユニットがいた。コンポーザーのHIKO氏に、ボーカル・作詞・作曲を行うKIRIKO氏のコンビだ。有名どころだとSchool Daysにも曲を提供している。そんな実力派ユニットであるが、KIRIKO氏が他のクリエイターから曲の提供を受け、ソロで歌うこともあった。今回はそのうちの一曲である「セパレイトブルー」という曲について語ってみたいと思う。

この曲は同名のエロゲーの主題歌である。私はこのゲームをやったことはないので特に本編については語ることがないのだが、自転車部によるロードレースを舞台にした爽やか青春モノらしい。OPを見ればわかるが、時代を感じるタッチの絵である。

 

さて本題。作詞のMOKA氏は同作のプロデューサーを務めているので、歌詞は世界観をきっちりと反映させたものとなっている。作曲はElements Gardenのクリエイターである藤間仁氏であるが、当時はfeelに所属していたためか、まだエレガらしい曲調ではない。

 

まずイントロ。口笛のようなこの音はハンドフルートだろう。この楽器を使った曲をほとんど知らないのだが、爽やかな曲の始まりにはピッタリだ。ベースのスライドからイントロは急に開けたように明るくなる。リードギターは夏の晴天を思わせるハードな音作りをしており、スネアと同じタイミングで叩かれるタンバリンの音は、爽やかでポップなイメージを膨らませるアクセントになっている。「何かワクワクすることが始まるぞ!」という、青春ど真ん中の物語を予感させるイントロだといえるだろう。

 

Aメロ。リズム隊とアコギ、ピアノという穏やかな編成だ。ベースがほぼずっとルートを8ビートで弾いているのだが、それがまるでぐんぐんと進んでいく自転車を表しているようだ。自分も打ち込みをして気づいたのだが、速度を維持したまま走っている何か(バイクとか車とか)を表現したい時、このテクニックは有効なのである。

 

Bメロは少し賑やかになる。ベースもAメロより動きが見られ、オルガンとほんの少しのエレキギターが入ってきたことで曲調がロックに近づき、音に厚みが生まれる。それでも世界観が破綻せずAメロの爽やかな雰囲気が継続しているのは、ドラムのパターンがほとんど変わらないことと、メロディーの優しさ、そしてKIRIKO氏の柔らかいボーカルがあるためだろうか。

 

さてサビ。Bメロで編成としてはほとんど完成していたのだが、やはり欠かせないのがタンバリン。この音が一つ入るだけでポップで爽快感の突き抜けた曲になる、パズルでいうところの最後のピースのような立ち位置である。またKIRIKO氏のコーラスも美しく、曲に煌めきを与える良いアクセントになっている。しかしここまで色々な音が鳴っているのに、お互いに音を打ち消し合うこともなく、それぞれが上手く混じり合っているバランスがすごいと思う。これも曲を自分でミックスするから思うのだが、パン振りとかボリュームとかどうやっているんだろうと、以前から首を傾げている一曲なのである。

 

KIRIKO氏ソロ曲(別名義も含めて)の中で私はこの曲が最も好きであり、今も聴き続けている。それだけにKIRIKO氏としての活動が一切なくなってしまったのは寂しい。ブログもあんなに楽しそうに書いていたのになあ…。しかしあっちの名義のブログは全部消えてしまっているのに対し、こっちのブログは今も残っているので、たまに見返しては一抹の懐かしさを覚えたり。

きゃりーぱみゅぱみゅ/つけまつける

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あれは学生時代、バイトでリーダーをしていた時だったか、バイトリーダーが三人いる職場だったのだが、上半期を終えて社員さんがリーダーを対象にお疲れ様会を開いてくれることになった。私はその日バイトがなかったので現地集合であったのだが、業務終了が午後11時という少し特殊な仕事だったため、社員さん×2と午後11時30分に集合した。一週間のど真ん中での深夜の飲み会だ。なんてハードなんだ。

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結局待ち合わせは午前0時となった。ヒマだったので誰もいないポルタを撮影

その飲み会の後、我々はカラオケへ行くことになった。朝までオールだそうだ。平日仕事終わり深夜だというのにこれほどまでに元気であるため「この社員たちは無敵なのか…?」と思った。そこで一緒にリーダーをしていた女の子が入れた曲、それがきゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」だった。私はきゃりーぱみゅぱみゅという名前は聞いたことがあったのだが、歌を聴くのは初めてだった(本人の声ではないが)。またそのカラオケの映像では本家のPVが流れてきて、その女の子には申し訳ないのだが、独特な世界観やクオリティの高いPVに目が釘付けになった。

きゃりーのビジュアルは今までにないタイプの可愛さだと思った

どうでもいい前置きはこれぐらいにして、今更「つけまつける」について語ってみる。いやもう本当に今更だ。最初のサビはきゃりーのアップから入る。気が付きにくいのだが、四拍目できゃりーが必ずまばたきをするのが印象的だ。音圧ヤクザと名高い中田ヤスタカ氏の作る音色は、イントロからもうバッキバキなのがよーく伝わってくる。DTMをやっている人間からすると、これだけ色々な音が鳴っていて、ここまでの音圧を作ることができるのは不気味で仕方ない。

 

コード自体はBメロ以外ほとんど同じであり、Dmaj7をこれでもかと連発してくるイ長調の強気な進行である。一方のBメロはかなり異質である。ソのシャープが取れてト長調になったかと思えば次の小節では嬰ヘ短調ヘ長調(コードはFadd9なのでわかりにくいが)→ホ短調変ホ長調と、一小節ごとに転調を繰り返しているのだ。この曲に限った話ではないが、ヤスタカ氏はBメロでコード進行の粋をよく利かす。んで、何事もなかったかのようにサビへ移るテクニックは圧巻である。

 

さて、きゃりーの世界観は原宿系だそうなのだが、このPVに関していえばさくらももこの世界観のようにも思えた。単なるカワイイ系ではなく、摩訶不思議なダンスや曼荼羅のような背景、着ぐるみを脱いで出てくるのはインチキおじさんならぬキレッキレのダンサーなど、その系統を継いでいるような気がする。しかしその世界観を煮詰めるとここまでカッコよくなるのだから素晴らしい。

 

なお朝まで歌った我々は朝マックを頬張った。私は丁度その日授業がなかったので、その後家へ帰ってグッスリと寝ていたのだが、社員×2は昼からまた仕事へ行ったそうな。社会人は斯くあるべきかなと思っていたのだが、そのうちの一人は翌年に別店舗へ異動となり、そこで業務を放り出してそのまま辞めてしまったとか。心の角度が小さくなって、やがてなくなってしまったのだろうと、オチをつける。

ブレイザードライブ

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カードゲームタイプのゲームは、数年に一度リバイバルマイブームがやってくる。「ポケモンカードGB2」、「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ6 エキスパート2」、「カルドセプトDS」、「高速カードバトル カードヒーロー」など、終わりがない故にいつまでも遊べるようなゲームをふと思い出して電源を入れると、しばらくの間ハマってしまう。そんな不思議な魅力がある。

 

そんな中でも特に私がハマったのが「ブレイザードライブ」というDSのゲームだ。アクティブタイムバトルシステムを導入したRPGに、カードゲームの要素を取り入れたゲームである。デッキからミスティッカーというシールを引いていき、これを腕に貼ってプレイヤーを強化し、相手のHPを削っていくというかなり独特なシステムを持つのだが、これが絶妙な戦略性と中毒性を生み出し、ターゲットの年齢層が中学生ぐらいだったと思うのだが、大人もハマれるクオリティに仕上がっている。近未来的な世界観のストーリーも熱血王道モノであり、キャラクターも魅力的な人物が多い。

 

そして秀逸なのがBGM。まずOP「Blaze Out!」をサイキックラバーが歌っている。

ハードなギターが響く熱血な歌詞と、サイバー感溢れる打ち込みサウンドがマッチしたこの曲は、単独で記事にしたいレベルなのだがここで書いてしまう。最初に聴いた時よりも、このゲームを何度も遊んでいくうちにどんどん好きになっていく名曲だ。「Blaze Out!」というタイトルや、「絆に貼った誓い なぞるたび傷ついても」という世界観に合わせた歌詞など、ゲームのために書き下ろされた曲であることがわかる。そもそもこの曲の制作に本編サウンドクリエイターの澤田朋伯氏が参加しているため、本編とマッチした曲に仕上がっているのだろう。

 

その澤田氏の作る本編BGMも秀逸だ。本作中最も私の愛するBGMが、この「シブヤ003」である。

第Ⅲ区にあるデパート「003」のエリアに入ると流れてくるハウス調のBGM。近未来と自然が調和した店内にミドルテンポの四つ打ちがリズミカルに響き、跳ねるようなシンセベースがノリを作り、シンセやヴォコーダーの声がこれを彩る。ハウスの曲として最高のバランスを誇っているBGMだ。後半の左右に広がるブリブリとしたシンセベースがアクセントとなっており、単調な作りにさせないところも凄い。

 

一番耳にするBGMは「フェンリル指令室」だろう。

ミッションの受注、連れていく仲間の選択、通信にショップなど、ガーディアンとしての活動準備は全てここで行う。オールドライクでブギーなギターに、スクラッチやシンセベースが合わさった古くて新しい曲調が特徴的だ。ハイテクの粋を集めた拠点の割には近未来感のない曲であるが、ハードなミッションから帰ってきた主人公がくつろげるような力の抜けた曲調がちょうど良かったりする。

 

ラグーナやモノレール駅のある第Ⅶ区セントラルフォールのBGMは本編の中でも風変わりな曲調である。

大滝に伴った川が流れているからか、水辺を思わせる仕上がりになっている。鳥の声のような効果音、ディレイの効いたパーカッションが辺りを包み込み、この地区のスケールの大きさ水辺の気持ちよさを感じ取ることができる。それでいてここが最先端の技術で整備された場所であることを思わせるかのようにシンセの音が鳴り響く。ウナギを探したり樽を運んでる場合じゃないんですよ。なおこのヴェネツィアを模した町であるミッションをクリアするとケットシーのミスティッカーが貰えるあたり、某漫画&アニメのオマージュを感じずにはいられない…。

 

第Ⅰ区に位置し「お子様お断り通路」「あやしい店」「あぶない店」などが並ぶ大人の歓楽街ピンクパラダイスで流れるのは「桃色楽園」。

ウワモノは和風なのだがドラムがヒップホップ系という、これまた異様な組み合わせがダーティな世界観を成立させたBGMである。CERO Bで対象年齢が12歳以上だからといって、よくもまあここまで色っぽい街を平然とフィールドとして用意したものだと今でも思っている。違法ドラッグを取り締まるミッションまで用意されている始末である。

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この街を作ったおかげで、CEROがBに上がってしまったのだが、そこまでしてやりたかったのか…(ただし四帝王のカレンの衣装も原因の一つだと考えられる)。

 

戦闘BGMはどれもカッコいいのだが、二つ紹介したい。まずボスである四帝王戦のBGM。

主人公たちの行く手を塞ぐ悪の組織NEXT。その幹部である四帝王というSランクブレイザーがいるのだが、四人のうち三人は大して強くはない。しかしツルギという四帝王だけはメチャクチャ強いのに、なぜかストーリーの序盤で出てくるのである。コイツの強さの秘密は、ボススキルの「連剣『隼』」という二回行動能力と、その度に確率で発動するナイトメアでこちらのドライブモードを潰す(シールを引けない&シールを貼れない)ため、手札に折角良いミスティッカーが揃っても何もできない。2nd-DRIVEでライトニングムーブが発動される頃には、好き放題に嬲られるしかなく、1対2の戦いでこちらが有利であるにも拘らず、あっさりと負けてしまうのである。その時のトラウマからこのBGMは耳に焼き付いているのだ。というか普通四天王系って段々強くなっていくのに、最初の一人が一番強いのってどういうわけなんだろうか…。

 

またラスボスのアルバート戦のBGMも印象的だ。

ボススキル「電風の天罰」によって後攻から急にスピードを上げて二回連続攻撃を行ってきたり、ミスティッカーのルナによるミスティッカー破壊を毎ターンやってきたり、「天の支配」のスキルでこちらの攻撃を防いだり、時間をかけて育てたミスティッカーを2nd-DRIVE「カオスゲート」で全部破壊してくれたりと、チートスキルによってボコボコにする悪党中の悪党である。「六賢、我と共にあり!」「最期の時だ!」という言葉が聞こえてきた時の絶望感はゲーム随一である。したがってこのBGMもトラウマになっているのである。

 

他にもまだまだお気に入りのBGMが沢山あるのがこのゲームであり、ゲームシステム、BGM、ストーリーと非の打ち所がないのだが、どうにも知名度はそこまで高くない。というのも販促漫画を連載していたのが『月刊少年ライバル』であり、明らかに掲載雑誌チョイスを間違えたように思う。これがコロコロだったらなあと思わずにはいられない。

 

しかしその完成度からファンは多いので、今はまだ叶わない願いなのだがSwitchあたりでリメイクor続編が出てくれればと切に願うばかりである。

茅原実里/Paradise Lost

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特にファンというわけでもないのだが、“茅原氏”と毎回打つのも味気ないので、愛称の“みのりん”を使わせてもらおう。私がみのりんの歌を知った曲、「Paradise Lost」である。

喰霊-零-」というアニメの主題歌だったか。このアニメはすぐに見なくなったのだが相当な食わせ物だった。特殊部隊で戦う主人公チームの物語で一話が進んでいったが、そのメンバーが一話ラストで全員殺されるという、DTBも真っ青な凄惨な展開を見せた。で、本当の主役達の物語が始まるというわけだ。

 

まあサプライズ要素ということなのだが、何がすごいって公式サイトも特殊部隊が活躍するかのようにデザインされていたし、果ては近所のTSUTAYAに売っていた原作マンガのポップすら特殊部隊を貼っていたのである。ここまでするか。少しして同じTSUTAYAに行った時にまだそのポップが貼ってあったので、心の中で「おのれTSUTAYAめ」と罵ったことを覚えている。いやTSUTAYAは悪くないんだが。

 

本題に入ろう。そのアニメが少ししてから流れてきたのがエレガっぽさ全開のOP。イントロからバリバリのデジタルロックなのだが、そこに響くのが、この曲の主役ともいえるストリングスである。早いテンポでの16分音符のフレーズもなんのその、エッジの効いたその音色はもはやシンセで作ったストリングスのようであり、私もそう思っていたのだが、調べてみたら実際に弾いているのだとか…。

 

Aメロ16小節は最後の一小節を除いてキックドラムを一切鳴らさない。二番のAメロでは変則的ではあるがキックを鳴らしているので、Aメロとしての盛り上がりを控えめにして、最高到達点である一番のサビに向けての準備を始めているのだ。

 

Bメロから段々と各楽器が揃い始めるが、ここも盛り上がりを抑えた進行になっている。7小節目に一つマイナーコードを挟んで、まるで踏み切り板を用意したかのように8小節目にドミナントコードが置かれてある。

 

ここまでの24小説を経て、溜めに溜めたサビがとうとうやってくる。勿体つけたかのようでハードルは上がりきっているものの、その高さを易々と超えてくるのがこの曲のサビである。みのりんの曲はストリングスを多用するものが散見されるが、この曲はまさにストリングスのためにあるような曲であり、サビでは荒れ狂う暴風を引き連れてきたかの如く、その真価を発揮する。そしてコーラスも含めて、それに負けないみのりんの声が凄まじい。ストリングスが連れてきた暴風は、みのりんの声を押し上げるためのエネルギーだったということがここでわかるのだ。

 

この16小節だけで充分サビとしては成立しているのだが、さらにここから8小節サビが続く。音は一度大人しくなるものの、最後には音色が勢ぞろいしてきっちりとサビを締める。

 

angelaの「Beautiful fighter」なんかもそうなのだが、ストリングスを多用した風速の強い曲が私は大好きであるので、当然みのりんの曲は好みのものが多かったりする。それだけに今年で歌手活動を引退してしまうのは、やはり悔やまれるのである…。

ドレスコーズ/Lolita

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私の好きだった毛皮のマリーズは、2011年の年末に解散してしまった。以前記事にも書いたことがあるが、クラシックなロックをサンプリングしたような志摩氏の曲作りのセンスは凄まじかった。そこから数か月も経たないうちに、志磨氏の新バンドとして発表されたのがドレスコーズというバンドで真っ先に聴いた曲がこの「Lolita」である。

イントロ~Aメロからもうやられた。ザクザクしたギター一本で志磨氏の声を静かに聴かせる。歌詞に「さあ始まりの朝だ」とあるように、この音からこのバンドは始まっていくのだということを知らしめるかのような入り方だ。

 

そしてAメロ後半でバンドサウンドが勢ぞろいする。その音で何を歌うのかといえば、最初の一歩を踏み出そうとする少女に対し、年を重ねた自分が「戯れの日々も 淡い恋も 美しい思い出は」「この旅路の君の傘となる」と伝える。実に文学的ではないだろうか。まだ世の中のことを知らない少女が出会っていく人々や経験、それらを繰り返していくことで、自分を守る「傘」となる。この曲は全編通して、これから自分と似たような経験を積んでいくであろう子どもに対する、とても優しい応援ソングなのだ。毛皮のマリーズの「Mary Lou」や「ラストワルツ」なんかもそうだけど、志磨氏はよく少女に語り掛ける曲を作るんだよなあ。

 

しかしこうも考えられる。「毛皮のマリーズ」というバンドを立ち上げ、やり尽くしたところで自らそれを終わらせた志磨氏。また新たなバンドを立ち上げて突き進もうとしている。つまり「Lolita」は、生まれたばかりのバンドである「ドレスコーズ」、ひいてはそれを立ち上げた志磨氏自身のことであり、セルフ応援ソングなのではないかということだ。PVでも一番はずっと壁の前で立ち、歌を口ずさむ程度。しかし「振り向くなロリータ」と歌った後に、バンドセットの元へ足を踏み出していく。彼らが後ろを振り向いたところで、そこには壁しかなく、もう戻るつもりはない、だからこそ足を進めていくという所信表明にも感じられるのだ。

 

この曲にはわからない部分もある。二番Aメロ後半「別れを知り 僕らは大人になる」のコードの部分。一番から繰り返し使っている進行なのだが、メジャーコードを使っているにも拘らず、ここの部分だけなぜだか苦々しい響きがある。この進行を奏でているギターが、今まではカッティングで演奏していたのが、ここだけはジャーンと吐き捨てるように一度ストロークしているというのもあるのだが、何か余計な音を入れているような不協和音に近い音になっている。ピアノでこのコードを再現してみたのだが、どうにも上手く鳴らせない。ギターの弾けない私には知らない、独特な鳴らし方があるのかもしれない。しかし一番では「淡い恋」「美しい思い出」と歌っているのに対し、二番の歌詞には悲しみや怒りのような言葉が全体的に散見されている。苦虫を噛み潰すような辛い経験も人生にはあり、そうやって大人になっていくんだぜと諭している。そこでこのモヤっとするコードがかき鳴らされているのだから、二番の歌詞においては最適な表現なのだ。

 

そんな「Lolita」であるが、使っているコードがなかなか複雑であり、この後彼らを待ち受ける複雑な歩みをすでに予感させていた、と今にして思ってしまうのは考えすぎだろうか。

しかしまあ、色っぽいアーティストだ

Retro G-Style/What's the answer?

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このグループと出会ったのは、制作会社が変わったことでキャラの絵柄もガラリと変わった「爆転シュート ベイブレード2002」を見ていた時だった。毎週見ていた割には話をほとんど覚えていないのだが、主題歌はハッキリ覚えているといういつものパターンだ。

 

ジャンルでいうとヒップホップ、特にアメリカ西海岸のG-FUNKを思わせるドッシリとしたドラムと、ビンテージなギターやブラスの音が特徴的ではあるが、彼ら曰く日本の「フォーク」も取り入れているという。J-POPにラップを入れるという試みは多くのミュージシャンが行っているが、彼らの場合は二つのジャンルをミキサーでかき混ぜて全く新しい味わいを確立させてしまったような、他に類を見ない独特なジャンルに進化させている。

 

そんなRetro G-Style(以下レトロ)の中でもかなりポップ寄りな一曲がこの「What's the answer?」だ。

イントロはIGORのラップから入る。ハーフのIGOR氏のラップは発音が心地よいのだが、かなりピースルフルなフロウであり、当時のヒップホップとは一線を画したクルーであることがよくわかる。その一方でAメロはMASAYAがフォーク節バリバリのメロディを歌うが、同じメロディを何度も繰り返すあたりがやっぱりヒップホップなのである。

 

Bメロは一転マイナーコードで始まる。ドラムのグルーブも変わって少し緊張感が漂うが、歌詞の雰囲気は冒頭から変わっていない。MASAYAの書く歌詞は抽象的だが叙情的であり、物憂げな雰囲気さえ漂っている。レトロのフォーク節は曲だけではなく、歌詞にも如実に表れているのだ。そして最後の2小節でサビに向かって盛り上がる準備を整わせる。このBメロがなかなか不思議な構成で、大体4とか8とか16小節でまとめるのが鉄板なのだが、この曲のBメロは6小節なのである。しかし違和感はなく、むしろ6小節がベストだと思わせる展開なのだ。

 

そしてサビ。突き抜けたように爽快感があり、ポップというよりもはや美しささえ思わせるメロディーである。他の曲もそうなのだが、レトロはサビの盛り上げ方が非常に上手く、日本人好みのするメロディをきちんとヒップホップに落とし込んでくるのが凄い。

 

この頃の私は凡そCDを集めるという考え方も財力もなかったので、ある程度年齢を重ねてから彼らの音源を集め始めたが、その頃には彼らは解散してしまっていた。しかし2010年に再結成をして、基本は変わらず、それでいて当時流行っていたような曲調も取り入れつつ、更なる一面を見せてくれた。私は大いに喜び、これからの活躍に期待をしたのだが、2011年にMASAYAが不慮の事故で亡くなり、活動を終えることになってしまうという、あまりにもショッキングなニュースが飛び込んできた。

 

それから7年の月日が流れ、まさかの3rdアルバムが配信された。どうやら未発表の音源をまとめて一枚のアルバムにしたようなのだが、新曲が聴けるとは夢にも思わなかったわけで、私はしばらくしてそれを知ったため出遅れたのだが、そこからすぐに購入をした次第だ。

 

先述のように、ちょっと他にはいないジャンルのグループであり、私の好みにピタリとハマっている。もう彼らの新曲は聴けないのだが、令和の世になってもヘビーローテーションするぐらいに往年の名曲と化しているのだから、どうということはない。

fripSide/only my railgun

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以前の記事にも書いたように、私はfripSideにはナオプロから入ってしまった。

ナオプロとしてのデビュー時、fripが萌えソングを歌う様に衝撃を受けたファンもいたようだが、逆に私は通常のfripの曲を聴いて「えっ、fripってカッコいい歌も歌うのか!」となったわけだ。

 

そんなfripからnaoが脱退し、spiral of despair -resurrection-でRita氏が急遽ボーカルとして代役を務めた後、ジョルノこと南條愛乃氏が二代目ボーカルとして加入し、発表されたのがアニソン史に燦然と輝く名曲「only my railgun」だ。

まさかここまで売れるとも思っていなかったのか、後のPVに比べてお金がかかっていないのはご愛敬。ついでに言うとsatの顔が全然映らない

アニメ「とある科学の超電磁砲」のOP主題歌として抜擢されたこの曲を聴き、私は「ついにfripが帰ってきた!」ではなく、「なんだこの曲、今までのfripとは違うぞ…!」と思ったことを覚えている。ボーカルが代わったことは別として、音一つ一つがかつてのfripを彷彿とさせつつも、別の何かに進化しているような感じがした。

 

まず気になったのは音の丸さ。これはどういうことかというと、一期のfripの音って、すごく攻撃力が高かったように思うんですよ。尖っていて耳に冷たく高い音がザクザクと刺さってくるようで、それが休む間もなく全速力で矢継ぎ早に来る感じ。それは悪いことではなく、むしろそこがfripの良いところで、ファンからすると心地よく思える中毒性のある音。ところがこの「only my railgun」はなんとなく音が丸く、それでいて一つ一つの音がハッキリ聴こえるのだ。

 

メジャーレーベルから発売されたため、ミックスやマスタリングがそもそもインディーズの頃と変わったのだろうといえばそれまでなんだけど、新しいボーカルを迎え、新しいレーベルに移ったことで、新しい一面をsat氏が見せようと気合を入れたのではないかと勝手に思っている。メンバーや環境が変わったのに「相変わらずのfripをお楽しみください」では、「じゃあnaoでよかったじゃん」となってしまう。むしろ「こんなこともできるんだぜ」「ボーカル変えた意味があっただろう?」と新しい一面を表現するのがクリエイターなのではないだろうか。

 

それから声も含めた音の低さ。これはジョルノの声質によるものだと思うんだけど、一期で見られたようなやたら高いハイトーンは見られなくなった。この頃のジョルノはキャラソンをちょっぴり歌うぐらいで、到底歌手と呼べるような立ち位置ではなかったから、そんな声は出せないというのは仕方ないのだが、だったらジョルノの声質に合うような曲を作ってやろうと言わんばかりのsat氏の工夫が、新しい一面を見せるきっかけとなったのではないか。元々sat氏はジョルノの歌の上手さではなく、その透明感のあるクリアな声と自分の曲調との相性の良さに確信を持ち、それまではボーカルを楽曲の一部と捉えていたのが、「歌をもっと前に立たせたい」と思うようになったそうなので、“音の低さ”というのはジョルノあっての新境地だったのだろう。

 

後はもう説明することがないほど、この曲を初めとしてfripは爆発的なヒットソングを連発した。タイアップの良さ、PVに芸人を招く意外性、一期では考えられないほどの規模のライブ(元々一期fripはライブをあまりやらないユニットだった)など、話題になるポイントが全部詰まっており、今考えるとそりゃ売れるだろうなと思わずにはいられない。そして「一期fripも良かったけど二期もいいじゃん」というのが私の感想で、一期に続き彼らの活動を追っていくことになった。現在に至るまでも音源は全部集めているし、一期も含めて私の所有する曲の中で最も曲数が多いユニットとなった。しかしまあここまで長い付き合いになるとは。

 

そういえば2020年には、セルフカバーを配信していた。

もうね、ここに至るまでのジョルノの成長具合ときたら。11年という旅を経てふと後ろを振り返った感じ。まったくの別人の声なんですよ。洗練されたキレッキレのカッコいい声質。どちらが良いとかではなく、「あの時も良かったけど、今も良いよね」という、私が二期fripを初めて聴いた時と同じことを、二期の中でまた思い知らされたのだ。