ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

ドレスコーズ/Lolita

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私の好きだった毛皮のマリーズは、2011年の年末に解散してしまった。以前記事にも書いたことがあるが、クラシックなロックをサンプリングしたような志摩氏の曲作りのセンスは凄まじかった。そこから数か月も経たないうちに、志磨氏の新バンドとして発表されたのがドレスコーズというバンドで真っ先に聴いた曲がこの「Lolita」である。

イントロ~Aメロからもうやられた。ザクザクしたギター一本で志磨氏の声を静かに聴かせる。歌詞に「さあ始まりの朝だ」とあるように、この音からこのバンドは始まっていくのだということを知らしめるかのような入り方だ。

 

そしてAメロ後半でバンドサウンドが勢ぞろいする。その音で何を歌うのかといえば、最初の一歩を踏み出そうとする少女に対し、年を重ねた自分が「戯れの日々も 淡い恋も 美しい思い出は」「この旅路の君の傘となる」と伝える。実に文学的ではないだろうか。まだ世の中のことを知らない少女が出会っていく人々や経験、それらを繰り返していくことで、自分を守る「傘」となる。この曲は全編通して、これから自分と似たような経験を積んでいくであろう子どもに対する、とても優しい応援ソングなのだ。毛皮のマリーズの「Mary Lou」や「ラストワルツ」なんかもそうだけど、志磨氏はよく少女に語り掛ける曲を作るんだよなあ。

 

しかしこうも考えられる。「毛皮のマリーズ」というバンドを立ち上げ、やり尽くしたところで自らそれを終わらせた志磨氏。また新たなバンドを立ち上げて突き進もうとしている。つまり「Lolita」は、生まれたばかりのバンドである「ドレスコーズ」、ひいてはそれを立ち上げた志磨氏自身のことであり、セルフ応援ソングなのではないかということだ。PVでも一番はずっと壁の前で立ち、歌を口ずさむ程度。しかし「振り向くなロリータ」と歌った後に、バンドセットの元へ足を踏み出していく。彼らが後ろを振り向いたところで、そこには壁しかなく、もう戻るつもりはない、だからこそ足を進めていくという所信表明にも感じられるのだ。

 

この曲にはわからない部分もある。二番Aメロ後半「別れを知り 僕らは大人になる」のコードの部分。一番から繰り返し使っている進行なのだが、メジャーコードを使っているにも拘らず、ここの部分だけなぜだか苦々しい響きがある。この進行を奏でているギターが、今まではカッティングで演奏していたのが、ここだけはジャーンと吐き捨てるように一度ストロークしているというのもあるのだが、何か余計な音を入れているような不協和音に近い音になっている。ピアノでこのコードを再現してみたのだが、どうにも上手く鳴らせない。ギターの弾けない私には知らない、独特な鳴らし方があるのかもしれない。しかし一番では「淡い恋」「美しい思い出」と歌っているのに対し、二番の歌詞には悲しみや怒りのような言葉が全体的に散見されている。苦虫を噛み潰すような辛い経験も人生にはあり、そうやって大人になっていくんだぜと諭している。そこでこのモヤっとするコードがかき鳴らされているのだから、二番の歌詞においては最適な表現なのだ。

 

そんな「Lolita」であるが、使っているコードがなかなか複雑であり、この後彼らを待ち受ける複雑な歩みをすでに予感させていた、と今にして思ってしまうのは考えすぎだろうか。

しかしまあ、色っぽいアーティストだ