ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

牧野由依/横顔

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漫画『ARIA』と出会ったのは高校生の時だ。タイトルが変わる前の『AQUA』をクラスメイトに薦められて読み始めてから、その近未来かつ温かい世界観と綺麗な絵柄に、あっという間にハマってしまった。大学生になって漫画を集め始め、夏休みなどはエアコンの使用を控える目的も相まって、『ARIA』を毎日のように読んで涼を取っていた。今なら死にかねないな。

 

そんな中、原作とアニメが揃って完結すると知った。実家は「ARIA」など放送されていない場所だったので、「ついにリアルタイムで見れるぞ!」と喜ぶと同時に、これだけ愛した漫画が「終わってしまうのか…」という喪失感も芽生え、複雑な感情に苛まれることになった。

 

原作は11巻の「黄昏時」から、そしてアニメ三期は4話から、私はもうずっと泣き続けながら読み&視聴していた。仲の良かった先輩が卒業し、一人前になって友人とも離れ離れになっていく。この心地よい時間が終わりに向かっていく展開があまりにも感動的で、涙腺がぶっ壊れたのではないかと思ったほどだ。たぶんここまで泣いた漫画&アニメはないと思う。

 

とまあ前置きが長くなったが、アニメ三期の12話、主人公の灯里の昇級試験のシーンで流れてきた挿入歌が、この「横顔」だ。今まで灯里が出会ってきた人や街並みが映り、まともにゴンドラを漕げなかった彼女が一人前へと成長した姿を見ている最中に流れてくるのだから、泣かせにきてるとしか思えない。

原作者ですらアニメを見て泣いたぐらいの完成度だった

 

セブンスコードが多用されているのは、優しさと寂しさが入り混じった感情を表現しているようで、クライマックスのストーリーに見事に当てはまっている。イントロやAメロはピアノの音だけで、そこにストリングスやアコギ、ベースにドラムなどがそっと入ってくる。この「そっと」というところが「ARIA」らしく、暗い街並みに灯りが点いていくような優しさを感じる。

 

サビの歌詞もすごく優しい。それなのにマイナーコードが多いのが印象的だ。微睡むような幸せな時間は永遠じゃないということを、それとなく知らせるような、一抹の悲しみが感じられる。

 

この曲で一番の盛り上がりを見せる部分こそ、2番サビ後のCメロだ。2番サビは1番と異なりメジャーコードで終わるのだが、そこからト長調から変ロ長調にキーが上がり、ストリングスのフレーズもアタックが強くなり、押し殺してきた気持ちが爆発したような感情的なパッセージになる。

 

その後三度サビに戻ってくるのだが、最大の盛り上がりの後にボーカルとピアノだけの構成になり、また楽器が勢ぞろいするのがズルイ。クライマックスで色々なことがあった後、灯里は一人で在りし日のことを思い出して、その思い出が消えてしまうのを恐れるシーンが原作にある。しかしそれでも彼女は新しい世界へ歩き出す。その展開を表現しているかのようで、構成の見事さに心を打ちぬかれてしまう。

 

曲も原作もアニメも、非常に綺麗な結末だった。あまりにも綺麗に終わってくれた。私の人生に大きな一ページを刻んでくれたコンテンツであった。そして2015年、まさかの原作の続きが劇場版で上映されることになった。当然見に行ったのだが、やはり私は泣いて帰ってきたのだった。ここまで私の心に残るコンテンツは、そうきっと今後現れないだろうと思っている。