ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

KAORI./Tears Infection

時は2007年。深夜アニメというものを覚えた私が、シリアスでストイックな作品を探し求めていたあの頃、「Myself ; Yourself」(以下マイユア)と出会ってしまった。そもそもこの放送枠、School Daysの後枠だったわけで、その時点で変なニオイがプンプンしてたのよね。

 

テレビ大阪で金曜深夜28:05~28:35(もはや土曜朝)に放送されていたそのアニメは、学園王道ラブコメだという触れ込みだった。こんな時間に王道ラブコメなんてやっているわけがないだろうと思い一話を見てみたところ、確かに普通のアニメのようだった。主人公「佐菜」(エロゲーを所有しているため、当時の視聴者からは「兄弟」と呼ばれ親しまれた)は幼い頃に住んでいた故郷に一人で戻ってきて、そこで昔の幼馴染と学校生活を送る。うんうん、王道じゃないか。

 

しかし一人暮らしを始めた佐菜の元に母親が連絡を入れてくるシーン。佐菜は母親に言い聞かせるように「わかってる。大丈夫だって、明日からちゃんと学校も行くから…」と答える。ちょっと普通の会話じゃないなあ、これなんかあるなあと。

ここで私は、得も言われぬ闇を感じた

そして佐菜はヒロインの菜々香と会うのだが、運命の再会だというのに、佐菜は菜々香のことを忘れてしまっていた。これに怒った菜々香がすごくツンツンするようになるのだが、回が進むごとにデレるようになっていく。ところがこのヒロインにも何か影があるのだ。

これは最終回でわかるんだけどね

また佐菜の友人朱里&修輔姉弟もムードメーカーとしてクラスを盛り上げるのだが、この二人も家庭がしっちゃかめっちゃかになっており、やはり穏やかじゃない。

姉弟です

あまりネタバレになる画像は貼れないが、タスケテポストとか、菜々香のライバルかと思いきや別のベクトルで一番ブッ飛んでた星野さんの独白とか、サイコ猫ババアとか、リスカップルとか、視聴者が引くぐらいに毎週人間の心の闇を描き続ける、狂気のアニメだった。やはり一話で私が感じた影のニオイは間違っていなかったのだ。

殺人未遂事件の加害者と被害者を同じ病院に入院させるなよって、当時思った

さて、曲の話をしよう。こんなに思い入れのあるアニメなので、OPも大好きだったりする。

学園祭をテーマにしたPVがあるのだが、こんな楽しいシーンは本編で一切存在しない

全体的な音作りは結構ハードであるのだが、まるで登場人物の人間関係や蠢く葛藤を描いているような感じがする。そこにイントロから流れてくるピコピコ音がすごく良い作用をしている。まるでこの青春ジュブナイルを、ヒラヒラと舞い飛ぶ花の高みから俯瞰して見ているような音なのだ。この音がこの曲を名曲たらしめているといっても過言ではない。

 

Aメロは歌詞がいきなり重めだ。誰にも見せない心のトラウマを見つめ、ふさぎ込んでいるような情景が描かれる。ドラムのフレーズもタムが多めでシリアスさを際立たせており、これが16小節続くのだ。

 

しかしBメロで主人公は立ち上がる。その理由が泣いている「キミ」の存在だ。「自分じゃない誰かの為なら」主人公は強くなれる。そこに「ハッ!」と気づいた時の気持ちがあるからか、Bメロからオケヒが聞こえてくるのもニクイ。

 

「僕はただ…」というエンジンを吹かすような入りから、サビは大いに盛り上がっていく。涙に濡れる「キミ」に対し、主人公は「あの場所に帰ろう」「だからもう泣かないで」と優しく語りかける。最後に「綺麗な未来が僕らを必要としている」と心強い励ましをするのだが、この志倉千代丸氏の文章のセンスの良さったら。まず主語が自分たちじゃなくて「未来」なんですよね。「一緒に未来へ向かおう」という優しさ。そして「未来が待ってる」とかじゃなくて「必要としている」。これだけで言葉がすごく力強くなるんですよ。この曲の視点って佐菜視点なんだろうけど、優しさとカッコ良さがすごい佐菜らしいんだよね。さすが我らが兄弟。「一級フラグ建築士」と呼ばれるだけある。

 

そして二番のサビのほうが力強かったりする。「キミがキミのままで あの日に帰れなくても大事な事は この先に描こう」「今もこうして時は続いてる」「僕らは意味があってここにいる」。本編で佐菜を襲う境遇って過酷なのよ。友人を失い、星野さんを励まし、菜々香のトラウマを真正面から受け止め、そして己の心の傷までも克服した。そんな佐菜にこんな言葉を言われたらさあ、どんなヒロインでも落とせちゃうって。

 

そんな「Tears Infection」だが、誰かがタイトルを「もらい泣き」と意訳していた。なるほど上手いこと言ったもんだ。しかし歌詞のスタンスは「泣かないで」なので、これだと矛盾してしまう。個人的には「Tears Infection」→「もらい泣き」→「キミの涙をもらう」という二重の意訳があるのではないかと思っている。なんか「true tears」みたいになってきたな。

 

アニメもOPも私の人生に大きな影響を与えるほど大好きなコンテンツだった。今も当時の友人とマイユアについて懐かしんでは笑い、カラオケでOPを歌ったりする。「素顔のままであの場所」に帰してくれるわけだ。それどころか先日はいくらも年下の知り合いにこのアニメを布教してしまった。そう考えると私の「Infection」は一生治りそうもない。