ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

MSC/Alergy feat.志人

ヒップホップといえばワルの華だ。オラついた兄ちゃんが攻撃的なリリックでディスとボースティングをぶちまける。そこには暴力的な空気が立ち込めているのだが、このMSCというクルーは、ただのワルとして語って終われない中毒的な魅力がある。

 

MSCは漢 a.k.a. GAMIを中心として新宿で結成された「未成年含め収集つかねえ十数名からなる格言残す革命結社」である。そのラップは彼らのアングラな生活をひたすらにリアルに描くものであり、それは単に暴力的というに留まらず、どこか病的で虚ろで剣呑とした怖さを感じずにはいられない。

今回その例として挙げたのが、「Alergy feat.志人」という曲だ。冒頭からその病的な魅力が存分に伝わってくるだろう。煙が充満した部屋でハイになった彼らが気だるげに「頭のAlergy 今日もマンチーズ」と歌う。このラップを乗せるトラックがまた不穏で、ボングのポコポコとした音があちらこちらに響き、ひんやりとしたSFXが飛び交う様はさながら幻覚を見ているかの如くだ。真っ暗な阿片窟からこちらをジッと見つめているようなこの不気味さは、聴いている我々に警戒心と居心地の良さという、相反する感覚を抱かせる。

 

まず口を開くは志人。いきなり「精神的障害と身体的障害」という言葉から入り、「今では部屋で死にたがる芥川龍之介」など、あまりヒップホップで見ない言葉が羅列される。志人といえば降神のメンバーとしてポエトリーラップで有名になっていくが、この時からすでにその独特な世界観とフロウが(後の作品よりかなり高音だが)存分に発揮されている。

 

漢のラップはとにかく何かを捲し立てるように、後半にいくにつれヒートアップしていく。そして数小節ごとに話がどんどん変わっていく。ハイな頭に浮かんだ言葉をとにかく並べ、その言葉はすぐに煙となって消えていくようだ。

 

「Libraのオカルト担当」「MSC最狂人物」のO2は前半も後半も同じリリックでラップをするのだが、ひたすら同じトーンで何かをブツブツと呟いているようである。話しかけちゃいけない雰囲気No.1だ。今は沖縄で牧師をしているらしいが、一体…。

 

この曲が収録されている「Matador」はどの曲もとにかく不穏で、通して聴くと胃にドスンとくる重さがある。それぐらいの名盤なんですよ。