ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

Russkaja/Energia

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「外国の面白いミュージシャン教えろ」的なスレで私がよく薦めているのが、このRusskajaだ。私自身も随分前に2ちゃんねるで教えてもらい、唯一無二の独特な音楽性に惹きつけられたクチだ。

 

彼らのジャンルは「ロシアンターボポルカメタル」だという。ここまでくるともはや足し算の暴力である。彼らが活動するオーストリアを始めとする東欧で生まれたポルカの軽快なリズムに、ボーカルやギターの出身国であるロシア語の歌詞、そしてロシア民謡のどこか物悲しく暖かいメロディが特徴的。「ターボ」と「メタル」に関してはテンポの速さを売りにしているのだろうが、メタルというよりかはパンクロック要素が強い。ホーンセクションがいるので、スカパンクというのかな?

一度見たら忘れられないPVだ。映像を見てもらえればわかるが、「ロシアン」という割にはソヴィエト色が非常に強い。アメリカと競い合った宇宙開発、画面を占める赤い色。ところがタッチはアメリカンという、意外性が面白い効果を生んでいる。おおよそ日本では作ることのできない映像だろう。

 

歌詞はやたらハイテンションで、体操の歌のように体を動かしたくなるワードが並んでいる。曲としては裏拍を強調しまくるポルカらしさが一貫して続いている。コードは非常にシンプルでマイナーコードが多いが、唐突にメジャーコードを挟む部分が多いので、コミカルで調子外れな雰囲気がよく出ており、暗く聴こえないところが良い。

 

今回のロシア=ウクライナ戦争に関して、複雑な想いを抱いているだろうなと思って久々にホームページを見に行ってみたところ、いきなり反戦のメッセージをトップに持ってきていた。もっともそれは誰に対してのメッセージなのか明確に書いてはいなかったので、活動のスタンス上、やはりコメントが難しいのだろう。ロシアの文化を愛する人々が、その想いを素直に表現できなくなってしまうのもまた、戦争の悲劇の一つなのだ。

tacica/神様の椅子

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tacicaと出会ったのも、スカパーの深夜のPV垂れ流し番組。一耳で「おっ?」となるバンドだった。

 

この曲もそうなんだけど、tacicaの曲は歌詞も曲調もかなり独特。声の出し方や歌詞の世界観はどことなくBUMP OF CHICKENっぽい。しかし“厭世的な人間賛歌”といえば伝わるだろうか。儚げで悲観的であるのに、それでも人間の温かさを信じている力強さが感じられるのが彼らの曲の強みなのだ。夜明けのまだ暗い部屋の中で、仄かに灯りをつける蠟燭のようなイメージ。

 

この「神様の椅子」も、漏れなくそのtacica節を感じられる一曲だ。

コードはシンプルなものを多用しているが、不思議なメロディーである。サビが顕著で、盛り上がらなさそうで盛り上がるのだ。サビのほとんどがセブンスコードで、こちらの感情の持っていきかたがあやふやで不安定になっているのかもしれない。でもメロディーラインは美しく、そこにボーカル猪狩氏の力強い声とメッセージが入ってくるため、感情に名前をつけるのは難しくても、昂りの渦に飲み込まれていることはわかるのだ。16ビートで叩かれるスネアや時折うねり散らかすベースラインなんかも、その昂りを助長する。

 

歌詞については、ペシミズム溢れる視点で神様に皮肉を言っているようにも聞こえるが、神様に対する気持ちは固まっておらず、やはり不安定だ。カラフルな言葉を使っているのに、心はマットな無色というか。しかしながら希望をどこかに持ち続けている部分がやはり隠し切れない。この不安定な希望を歌うところに、学生時代の自分は惹かれたのだろう。

 

そんなわけでtacicaの世界に入っていったのだが、私がかつてネット上で親しくしていた人に、tacicaのファンの方がいた。その方には私の書いた初期の曲のイラストや動画を作っていただき、ポップで可愛い世界観の後押しをしていただいた。その方があるつぶやきを境に音信不通になってしまった。

すでにネットの世界から見えなくなった方の過去のツイートを掘り起こすというのも良い趣味ではないかもしれないが、大変お世話になった方なのですごく寂しくて、今でもこうして覚えていたりする。元気でいらっしゃればいいのだが、神様の椅子からはその様子がわかるのでしょうか?

OLEDICKFOGGY/月になんて

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OLEDICKFOGGYとの出会いは何だったか。2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で誰かに教えてもらったような、ようつべのオススメで出てきたような、随分前なのでうろ覚えだ。だが初めて聴いた時から、自分の中でその存在感は輝いたままだ。

 

彼らを知ったのがこの「月になんて」。

なんていうんだろうねえ、こういうジャンル。ウッドベースマンドリンアコーディオンが入っていて、すごくカントリーやロカビリーっぽくて、なんというかヒッピーの雰囲気がある。調べたらラスティックというジャンルだとか。初めて聞いたが、とてもカッコいい。

 

コード進行はカノン進行に似たすごくシンプルなもの。しかしどことくなく哀愁が漂うのは、楽器の編成だけでなく、歌詞によるものが大きい。この曲の歌詞は、文明の発展に対して警鐘を鳴らすもののように思える。PVなんかはすごくそれが顕著でわかりやすく、今まで人類が起こしてきた技術の開発とそれに伴う大きな悲劇を、これでもかとひたすらシニカルかつロックに描いている。

 

「何か面白いバンド知らない?」と聞かれたら、真っ先に挙げるぐらいインパクトのあるグループだ。そしてこんな尖った編成をしているにも拘らず、曲によってかなりジャンルが違ったりするのも魅力だ。ある時はロックンロールに、ある時は歌謡曲に、ある時はブルージーにと、曲ごとに様々な一面を見せてくれる。

 

月に行くことの是非はさておき、私の胸に眠る新しい音楽を渇望する悪魔を、この曲は激しく揺すってくれたのだ。

Noria/瞳のこたえ

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2009年のアニソンの中で、一位、二位を争うぐらい好きな曲がこの「瞳のこたえ」だ。「07-GHOST」という読売テレビで放映されていたアニメのEDであり、やはり私はこのアニメを見ていなかったのだが、アニソンチェックをしていた時に聴き入ってしまったのであった。

この曲を象徴するのはPVでも映っているバイオリンであり、イントロからその主役となる音を堪能することができる。全編にわたって聴こえるシンセパッドのような厚いコーラスも魅力的だ。使われているパーカッションはジャンベだろうか。響きのあるバスの音が水の重みを表しているようである。街の水路を進んでいくアニメーションがEDで使われていたことから、やはりそういう意味合いで使用しているのだろう。

 

Aメロから入るNoria氏の声は、高く透明感のある声なのだが、少し鼻にかかっていて幼げで優しさに満ち溢れた声。それでいて声優の声とも違う、あまり他にない独特なものであり、しかしながらこの曲にはこの声がベストなのだと思わせられる音なのだ。そしてよーく耳を澄ませると、シンセで作ったであろうガムランで見られるようなフレーズが聴こえてくる。この音がジャンベの音と交わって、より水面感を増幅させている。

 

このままアコースティックに進むかと思いきや、Bメロから入ってくるベースが高い音まで駆け上がって存在感をアピールし始める。グロッケン(っぽいシンセかな?)も入ってくるので、「ああ、この後盛り上がるための助走が始まったな」と思わせてくれる。歌詞はかなりネガティブで少し絶望的なものであるが、これもサビで希望の灯を強調するための対比となるフレーズなのだと考えられる。

 

まさかのエレキギターのスライドから始まるサビ。オブリガートを奏でるバイオリンは、さながら主人公の周りをフワフワと飛び回る妖精のようだ。今までの楽器が勢ぞろいし、ハイハットの音まで入ってきて、アンプラグドな音とバンド編成の音とが調和し、優しくも力強い壮大なサビが完成している。そしてその優しさと力強さは歌詞にも表れており、絶望に打ちひしがれた心に、浸透していくようなジンワリとした温かさが満ち溢れている。その温かさがあるから、人は希望に向かって進んでいけるというメッセージ性が感じられる。

 

この歌詞はNoria氏自身が書いており、曲は五十嵐“IGAO”淳一氏が作っている。このコンビの曲に「お先にシルブプレ」というものもあり、私はこの曲も好きなのでいずれレビューを書こうと思っている。サビのあたりのコード進行には「瞳のこたえ」と似た部分があり、そこがたまらなく良い部分なので、自分はこの進行が好きなんだなあと実感した。一方で文語体である本曲の歌詞とは真逆で、「お先にシルブプレ」の歌詞は口語体なところが可愛くて仕方ない。どちらの歌詞も素敵に書きこなすNoria氏の作詞センスは素晴らしい。

 

私が10年以上使い続けているウォークマンにはアルバム名順に曲を並べ替えて再生してくれる機能がある。Noria氏はアルバムを出していないので、この曲のアルバム名をとりあえず「07-GHOST」としているのだが、すると全ての曲の中で真っ先にこの曲が再生される。このソート基準はウォークマン独自のものなので、他のプレーヤーで並び変えるとこうはならない。したがって私がこのウォークマンを使い続ける限り、小さな灯としてずっと先導役を買って出てくれるのだ。

The Avalanches/Frontier Psychiatrist

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ここまで変態的なミュージシャンは他にいないのではないか。

 

もう15年以上前のこと。父がジャケット買いしてみたものの期待外れだったので、この曲が収録されているアルバム「Since I Left You」を私にくれた。よかったものではなく、自分が不必要な物を共有したがるのが父という人間だ。

 

私も聴いてみたわけだが、収録曲が一つに繋がっており、トラック番号は存在するものの、そこから再生してもぶつ切りのように始まる。うーん、これは微妙だなと思った。ジャケットをめくってみると、英語の文章が本のようにビッシリと書いてあって、全く意味がわからない。しかしながら「Frontier Psychiatrist」というこの曲は、妙な癖があって少しばかり気に入ったのであった。

ジャンルでいうとヒップホップだろうか。ラップではなく不思議な台詞が入っており、スクラッチが多用されている。曲にしてもPVにしても遊び心が豊富で、聴いていて楽しくなる。

 

そんなわけで私のMP3プレーヤーのリストに入り、登下校の途中に繰り返し聴く一曲となった。この謎のグループを知っている人など周囲におらず、特に何を掘り下げることもなく、私は別の音楽を探していた。

 

そこから数年後、ふとThe Avalanchesをネットで調べてみて驚愕の事実が発覚した。このアルバムで鳴っている全ての音はサンプリングだというのだ。意味がわからなかった。ヒップホップ界隈ではサンプリングを使うことがあるが、ウワモノに一つ二つ使う程度だ。声も楽器も効果音も、何もかもが全く別の曲や番組から引っ張ってきている。なんという気が遠くなる作業だろうか。この曲だけでも27曲をサンプリングしているという。ジャケットの裏にビッシリと書いてあったものは、アルバムで使用したサンプリング元の表記だったというわけだ。マジかよ。

代表的なものをいくつか紹介しているが、この動画だけでもドン引きである

このThe Avalanchesというミュージシャンはどれだけ音楽が好きで、どれだけ音楽を聴きこんでいるのか。音楽界におけるスイミーなのよ。特に大きいわけでもない、なんか変な魚がいるなと思ったら、900匹の超小魚で構成されているっていう。それを感じさせないぐらい彼らは綺麗に泳いでいて、そしたらもうね、ドン引きしてこの曲を軽く聴き流せなくなるのよね。

 

こんなアホみたいなアルバムを一枚出して以降、彼らは音源を全く出していなかった。そりゃそうだ。一枚作るのにどれだけの時間と労力と許可を用いねばならないのか。もはや伝説となって語り継ぐ(誰に話したものか?)存在かと思ったら、2016年にセカンドアルバムを出していた。16年かけて作ったのか…。セカンドの「Wildflower」はラッパーを連れてきてラップを乗せるなど、全音サンプリング路線を止めていた。しかしながら自由度が増した分、ポップな曲も増えていたのが特徴的だった。

 

2020年にはサードアルバム「We Will Always Love You」を出していた。前作から4年という、Avalanchesにしてはハイペースなリリースでだ。これもまた完成度が高く、やはり変態的な天才が作る曲というのは上質でスイートだと言わざるを得ない。どうでもいいけれど「変態」と「天才」って韻踏んでるな。

LAST ALLIANCE/SPIRAL WORLD

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私がLAST ALLIANCE(以下ラスアラ)を知ったのが、「Me and Your Borderline」というアルバムに収録されているこの曲。スカパーの深夜のPV垂れ流し番組で偶然見つけたいつものパターン。もう16年も前の話だ。

 

このバンドはボーカルが二人おり、曲によって変わるスタイルを採っているバンドだ(交互に歌う曲もある)。曲調はパンクやメロコア的で疾走感があるものが多いのだが、どこか叙情的な歌詞とメロディーがエモかったりする。

ぐるぐる回るカメラワークって流行ったよね

暴れながら哀愁たっぷりのコードとソロをかき鳴らすイントロで、当時の私は画面に釘付けになっていた。歌詞の意味はよくわからないが、なんというか“平凡な日常”だとか“決められた善悪の価値観”だとかに唾を吐いて中指を立てるような世界観、といえば伝わるだろうか。非常にパンクパンクしていて、尚且つちょっぴり中二病テイストなところがすごい良い。発音が独特でパンチのあるANZAIの声が、これまたピッタリと合う。

 

そんなラスアラが音源を最後に出したのが10年前。実質活動休止状態なのだ。ところが公式サイトやTwitterの更新は今日も続いているという、なかなか珍しいパターン。学生の頃から聞いてきた私は、もう疾走できない体になっているが、心は今も疾走感を求めているのだから、新しい音源を早くッ…!

KIRINJI/ブラインドタッチの織姫

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「RUN AWAY GIRL 流れる女」というドラマが2005年、BSフジで放送されていた。私が見たのは再放送版だったので2007年のことなのだが、これが今まで見たドラマの中でも屈指の面白さだった。

 

主演は高野志穂氏とバナナマンの二人で、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏が監修、リレー形式で脚本家が毎回変わるという、かなり異色のコメディ作品だ。番組表を見た時にもジャンルが「バラエティ」になっており、そこから興味を持って見始めたらハマってしまい、毎週爆笑しながら続きを待ちかねたものだ。

 

そのドラマの主題歌が、KIRINJIの「ブラインドタッチの織姫」だった。

恋愛に縁のない女性にアプローチする主人公の歌だろうか。キャッキャと恋愛話に花を咲かせる同僚から離れ、PCのキーボードを素早くカタカタと打つ女性。「気遅れて」ということから、興味はあるんだけれど、そこに入れない。そんな女性に対して「拾う神」こと主人公は、なかなか余裕があるというか、オシャレな口説き文句を並べるのだ。キスを「着弾」と喩える歌がかつてあっただろうか。

 

そんな素敵な世界観の曲だが、曲の構成がこれまた非常に素敵なのだ。イントロは各楽器が同じフレーズを順番に弾くという、一風変わった入り方で始まる。そこにスネアの頭打ちでサビが入るのだが、このサビがなかなかの曲者だ。Cのコードから始まるオーソドックスな曲調かと思いきや、五小節目だけ急にシャープが二つ増えたBメジャーのコードがやってくる。一つ下のキーのメジャコードがすぐ近くに置いてあるっていうのは、転調でもしない限り滅多にないのだが、これをサラっと入れてきて、すぐに元のシャープの数に戻っていく。

 

そして同じフレーズをもう一度繰り返すかと思いきや、サビ15~16小節でF7→A7となる。F7はB♭のメジャーの、A7はDのメジャーをそれぞれキーとする曲でよく使われるコードだ。それをCメジャーの曲の、それもサビ16小節の間にこっそり入れるこのセンスたるや。Cの隣近所にあるコードを敢えて入れるのは、恋に出遅れるヒロインに、「拾う神はすぐ近くにいるものだよ」という主人公の心情を表しているのではないか、と思うのは考えすぎかもしれない。

 

使っている楽器はバンド編成でよく見られるものばかりだが、山下達郎氏を彷彿とさせるコーラス、時折使われるボーカルのダブリング、温かみのあるシンセ、クールにうねるベース、ソリッドなドラムが、脳の気持ちよいところを突いてくるような多幸感をもたらしてくれる。ラスサビではD♭に転調し、雲の上に飛んでいく恋愛の喜びに気づいてしまったような感覚すら味わえる。

 

とにかく静かでアナログでポップ。冨田恵一氏プロデュースのこのepは、そもそもタイトルに「スウィートソウル」とあるように、70年代のソウルを日本のシティポップとゼロ年代の音で再構築してみたと言わんばかりの一枚となっている。美味しい所を凝縮させ、なおかつ余計なものを削ぎ落とした洗練された曲の数々は、KIRINJIの音楽観をそのまま表しているようだ。

それはさておき、「RUN AWAY GIRL 流れる女」のDVD化or配信をずっと待っているのは私だけではないはず…。