ガラパゴスからの船出

時代の潮流から随分外れた島に浮かぶ音楽ブログです。お気に入りの曲(2000年代後半が多め)の感想や好きな部分をひたすら垂れ流します。

安穂野香/NICE PEACE

私の人生を変えたお笑い番組は二つある。一つは「爆笑オンエアバトル」。そしてもう一つは「あらびき団」だ。

 

大学生時代、ふと深夜に新しいお笑い番組が始まると聞き、試しに見たのがこの「あらびき団」だった。記念すべき第1回のトップバッターとして出てきたのが「ジュニー・ザ・ピンボール(現ふとっちょ☆カウボーイ)」であり、自身のメタボ体型を使ってひたすら「パーンパーン」と言うネタ。この番組が異質なのは、その粗削りなネタを編集の妙技でパッケージする部分。当時はショートネタブームで、どんなに酷いネタでも「ほら、面白いでしょ?」というパッケージがされていたため、視聴者としてはうんざりしていた。ところがこの番組ではカメラワークを引きで取ってステージでポツンとネタをやっている様子を映してしまったり、失敗した様子をわざと映していたりと「ほら、こんなに酷いんですよ…」というパッケージを施し、その酷さで笑わせてくるのだ。

さらに司会のライト東野(東野幸治氏)とレフト藤井(藤井隆)氏の2MCが、視聴者と同じ視点で見てネタの酷さにツッコミを入れながら大笑いする。いわばつまらない映画の酷さを仲間内で語る時の盛り上がりに似ているだろうか。その毒のあるコメントのおかげで、安心して我々は粗削りなネタで笑えるのだ。

 

中毒性のある番組だった。はるな愛や風船太郎やハリウッドザコシショウなど、後にスターになる人々も最初期の頃に出演しており、2回目以降も毎週楽しませてもらった。しかしあまりにも大きすぎる衝撃が、4回目の放送で起こったのだった。

なぜか顔を隠して紹介される、セーラー服のミュージシャン。

イントロでも顔が隠れており、なかなか顔を見せない。顔を隠して歌うミュージシャンなのかな?…と思いきや

ハゲたおじさんが美しい声で「♪NICE PEACE」と歌い始めたのだ…!

ツッコミどころだらけである。まずなんでハゲたおじさんがセーラー服を着ているのか。一切ボケる素振りもなく、マジメに歌を歌っているのか。そして曲が優しすぎるのはなぜなのか…。濃厚なフレーバーをバランス無視でミックスして出されたカクテルのようだ。いや、カクテルなんてオシャレなものではない。もはやにごり酒と言ってもいいぐらいだ。

そんな安穂野香ちゃんの代表曲「NICE PEACE」は、曲だけ聴くととても爽やかだ。「素敵なリズムに乗せて」歌を口ずさめば、大自然の音が聴こえる「PEACE」な状態になるというもの。NHKみんなのうたや、小学校の音楽の教科書に載っていそうなぐらい素晴らしい歌である。曲は終始ハ長調のまま進み、キーボードのチープな音がかえって優しい気持ちにさせてくれる。この曲一つあれば、本当に世界は「PEACE」になるんじゃないの?とさえ思えてしまう。

このとんでもないミュージシャンが、私は一発で大好きになってしまった。そして「この番組は打ち切られるかもしれないけど、残しておきたい」との思いから、毎週録画もするようになっていった。気がつけば大量の録画データが残り、番組も3年半ほど続き、2022年になった今も特番で放送されるほどの人気番組となっている。穂野香ちゃんの初登場時にライト東野は「番組終わるで!!」とツッコんでいたが

DVDの「第1回本公演」の際には「この人があって今がある」とまで言っていた。

2008年には「あらびき団 presents 安穂野香DVD」も発売された。2017年の特番をもって、番組からはすっかり卒業してしまった穂野香ちゃんだが、彼女がどれだけこのあらびき団を支えていたことか。まさに「ONLY ONE FOR ALL」な存在だったのだ。

曲のラストは毎回頭部のアップである